「Aさんには段ボールのまま売り場へ出すように言われて、Bさんには箱から出してカゴで運ぶように言われました。どちらが正しいですか」

入社2か月目の新人にこう聞かれて、店長がその場で答えを返せないことがあります。AさんもBさんも何年も同じやり方で回してきたので、どちらかを間違いと言い切る材料が手元にありません。

新人の教え方が人によって違うときは、手順書を書く前に、新人から食い違いを集め、同じことを言った人数で仕分けます。人数で分けると、そのまま書ける所と、誰かが決めないと書けない所が分かれます。

この記事の結論

  • 手順書を書く前に、入社して間もない新人に「誰に何と言われたか」を15分で聞く
  • 場面ごとに、教える人のうち何人が同じことを言ったかを数え、全員一致・一部一致・1人だけに仕分ける
  • 一部一致の場面は決める人を1人立てて決め、本文の各行に決めた日を残す
  • 1人だけのやり方は手順書の本文に入れず、名前を出さずに「コツ」欄に置く

人数や時間(教える人3人・15分・1か月)は2.1の目安なので、職場の人数に合わせて読み替えてかまいません。

新人の教え方が人によって違うのは正解が書かれていないから

教え方が割れるのは、どのやり方が正しいかを書いた手順書がないからです。教える人はそれぞれ、先輩の仕事を見て覚えたやり方を、覚えた範囲で新人に伝えています。

段ボールのまま出すAさんは、売り場で箱を開け、空き箱をその場でたたむ流れで覚えました。箱から出すBさんは、売り場に段ボールを置かない店で育っています。2人のやり方は、どちらもその人が教わった職場では回っていました。

困るのは、教える人が3人いれば、新人の手元に3通りのやり方が残ることです。新人が、その日に隣で働く人に合わせてやり方を変えるのは、そのためです。

ベテラン1人に手順書を書いてもらう方法もありますが、その場合、ほかの教える人のやり方は話し合われないまま消えます。書いた人のやり方に納得していない人は、手順書ができても自分のやり方で教え続けます。

前の職場のやり方を持って入ってくる経験者は、少し事情が別です。前職との違いの渡し方は、中途採用が即戦力にならない理由にまとめました。新卒を初めて迎える会社は、配属前の準備も含めて初めての新卒採用の準備と受け入れマニュアルで確かめておくと、受け入れの全体が見えます。

まず新人に聞く|誰に何と言われたかを15分で書き出す

食い違いを集める相手は、教わった新人です。教える人は自分のやり方しか知らないので、ほかの人と何が違うかを答えられません。教える人ごとの違いをいちばん多く聞いているのは、新人です。

聞く相手には、入社して1か月から1年以内の人を選びます。入社2〜3週目では、まだ全員から教わっていない場面が多く、1年を過ぎた人は最初に迷った場面を思い出しにくいからです。

聞く時間は15分で区切ります。聞き手は店長や課長など、教える人たちの上に立つ人が務め、教える人本人は同席しません。同じ部屋に教える人がいると、新人は角が立たないように答えてしまうからです。

聞くのは次の3問です。

  1. 最初の1か月で、人によって言われたことが違った場面はどこですか
  2. その場面で、誰に何と言われましたか
  3. いまは、どのやり方でやっていますか

聞き手は、場面ごとに「場面/教える人の名前/言われたこと」を1行にまとめてメモします。言われたことは、新人の言葉のまま書き取ってください。新人が聞いていない人の分は空けておき、あとで教える人本人に一言聞いて埋めます。「特に決めていない」という答えも、そのまま書いておきます。

チェック

聞き始める前に新人へ伝えておくのは、次の2つです。

  • 誰が間違っているかを決めるための聞き取りではないこと
  • メモを教える人に見せるときは、新人の名前を出さないこと

場面がなかなか出てこない新人には、1日の仕事を朝から順に話してもらい、止まった所で「ここは人によって違いましたか」と聞くのが早道です。仕事を先に一覧にしておけば聞き漏れが減るので、時間が取れるなら業務の洗い出し方法で業務を並べてから聞いてください。

教える人の側に同じ業務を書いてもらい、見比べる方法もあります。職員3人に書いてもらう進め方は、介護の手順書の作り方で紹介しました。2つの違いは、新人に聞く方法なら教える人の手を止めずに始められることです。

同じことを言った人数で3つに分ける|突き合わせ図

メモが集まったら、場面ごとに、同じことを言った教える人が何人いたかを数えます。新人が聞いていない分を本人に聞いて埋めた答えも、ここで数えに入れます。教える人が何人でも、仕分け方は同じです。

1人だけが言っていて、ほかの人に聞いても「特に決めていない」と返ってきた場面は、「1人だけ」に入ります。全員が同じことを言っていれば、全員一致です。それ以外は、全員が別々のやり方を言っていた場面も含めて一部一致とし、決める人に回します。教える人が3人で、2人が同じことを言い、残る1人が「特に決めていない」と答えた場面も一部一致です。

仕分けた後の行き先は、次のとおりです。

  • 全員一致:決める人が「それ、新人にできますか?」を1回確かめ、確かめた日を決めた日として添えて、手順書の本文に書く
  • 一部一致:手順書に書く前に、決める人が1つに決める
  • 1人だけ:手順書の本文には入れず、「コツ」欄に置く

新人の答えを言った人数で仕分ける突き合わせ図

品出しの例で考えると、3人とも「日付の古い商品を手前に出す」と言っていた点は全員一致で、手順書の本文に入ります。段ボールのまま出すか箱から出すかは、AさんとCさんが箱のまま、Bさんが箱から出すと言っていたので一部一致になり、決める人に回る場面です。Bさんだけが言っていた「値札は端から指で押さえて貼る」は1人だけのやり方で、行き先は「コツ」欄です。

全員が同じことを言っていても、新人が1回教わって同じ結果を出せるやり方とは限りません。全員が「慣れたら確認は省いていい」と言っていた場面は、本文に書く前に決める人へ回します。

人数は、どこを決めればいいかを見つけるために数えます。多数決ではありません。2人が言っていたやり方が、2人とも同じ先輩から教わった古いやり方ということもあるからです。どれを本文に書くかは、全員一致の場面も含めて決める人が最後に確かめます。

割れた所は決める人を1人立て、決めた日を残す

一部一致の場面は、決める人を1人立ててから話し合います。決める人を置かずに教える人同士で話すと、声の大きい人か、いちばん長く勤めている人のやり方に寄っていくからです。

決める人は、教える人たちの上に立つ1人です。店なら店長、事務所なら課長や所長、人数の少ない会社なら社長が務めます。決める役が社長1人に集まって判断待ちが続くときの考え方は、社長が現場から抜けられない理由に書きました。

決めたら、手順書のその行に決めた日を書き添えます。日付が残っていれば、あとで別のやり方が出てきたときに、いつの判断を見直せばいいかが分かるからです。選ばなかったやり方は消さずに、そのページの「コツ」欄に書き添えます。

その日のうちに決めきれない場面は、手順書のその行に保留と書き、決める予定の日を添えます。保留のあいだも新人は仕事をするので、決める人は「決まるまではこちらで」と、どちらか1つを新人に伝えてください。

決めた内容は、教える人全員に同じ紙で渡します。口頭で伝えると、聞いた人がそれぞれの言葉で言い換えて新人に伝えるからです。紙の書き方は、仕事の指示が伝わらない原因を扱った記事を参考にしてください。

ポイント

決める人は、一部一致の場面ごとに次を確かめてから1つを選びます。

  • やり方の違いで、仕上がりやかかる時間が変わるか
  • お客さま、安全、お金のどれかに関わるか
  • 新人が1回教わって同じようにできるか
  • いま新人がどのやり方でやっているか(3問目の答え)

手順書への置き方|本文・決めた日・「コツ」欄を分ける

手順書の1ページには、上に手順の本文を書き、各行の右端に決めた日を添えます。ページの下には「コツ」欄と次に見直す日を置きます。全員一致の行と決めた内容が本文、1人だけのやり方と、決める人が選ばなかったやり方が「コツ」欄の中身です。

手順書1ページの置き方

「コツ」欄には、教えた人の名前を出さずに書きます。名前が書いてあると、新人はその日に隣にいる人を見て、どのやり方にするかを選び直します。

「コツ」欄は、本文に入らなかったやり方を捨てずに残しておく場所です。教える人に伝えるときは、「あなたのやり方を消すためではなく、全員が同じ手順で教えるため」と話します。「コツ」欄のやり方が便利だと分かれば、次に見直す日に本文に移します。

最初の1ページは、全員一致の行が3行あれば、その日から現場に置いてかまいません。その3行の分だけでも、新人が誰に合わせるかを迷う場面は減るからです。割れた場面は、決める人が決めた日に、そのページへ書き足します。

どの業務から書き始めるか迷ったときは、工程に分けて書く順を決める業務フローの手順書の作り方を参考にしてください。手順書を置いたあとにミスが出たら、ミスの再発防止の手順書の進め方で、本文のどの行を直すかを探します。

注意

1人だけのやり方でも、刃物・熱・機械・お金・個人情報を扱う手順は「コツ」欄に置きません。言っていたのが1人でも決める人に回し、本文に書くかどうかを決めてもらいます。

教える人ごとの答えを一度に整理する手が回らないときは、2.1のマニュアル作成支援にご相談ください。

新人の教え方が人によって違うときのよくある質問

人数が少ない職場でも、3問で聞いて人数で分ける進め方をそのまま使ってかまいません。全員が別々のことを言った場面や、教える人が納得しないときの扱いも、ここにまとめました。

Q1. 新人がいない、または1人しかいないときはどうしますか?

新人が1人なら、その1人に3問を聞けば始められます。いま入社1年以内の人がいない職場では、いちばん最近入った人に、入社した頃を思い出して3問に答えてもらってください。

繁忙期だけ入る短期スタッフは、長く働く新人とは教える量が違います。初日に何を教えるかの絞り方は、繁忙期の短期スタッフの教え方で扱いました。

Q2. 教える人が2人しかいないときは?

2人の場合、分かれ方は、2人とも同じ、2人で割れた、1人しか触れていない、のいずれかです。2人で割れた場面は、3人以上のときと同じく決める人に回します。

1人しか触れておらず、もう1人が「特に決めていない」と答えた場面は、1人だけと同じく「コツ」欄に置きます。

Q3. 教える人が全員違うことを言っていたら?

教える人3人が3通りの別々のやり方を言った場面も、一部一致として、決める人に回す場面です。割れた場面の中で、決める人がいちばん先に決める場面です。新人がどのやり方に合わせればいいか、手がかりが無いので、いちばん迷います。その週のうちに1つに決めてください。全員一致の行で作った1ページに、決まった日に書き足します。

Q4. 教える人が納得しないときはどうしますか?

納得しない人のやり方は「コツ」欄に残っていて、本文の行には決めた日が付いています。本文のやり方で教えてもらい、次に見直す日(1か月後が目安)に「コツ」欄のやり方と並べて決め直してください。次に見直す日が手順書に書いてあれば、教える人は自分のやり方を手放さないまま、本文のやり方を試せるからです。

まとめ|新人が聞いた食い違いを、言った人数で仕分ける

まず、新人と話す15分を来週の予定に入れてください。3問で聞いた場面は、言った人数で全員一致・一部一致・1人だけに仕分けてください。そうすれば、手順書の本文に書ける行と、決める人が判断する場面が分かれます。

全員一致の行から手順書の1ページに書き、割れた場面は決める人が決めた日に書き足していってください。決めた行には決めた日を、保留の行には決める予定の日を添えます。次に新人から「どちらが正しいですか」と聞かれたときは、手順書のその行を指して答えられます。

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