入ったばかりの社員が隣の先輩に「この請求書、誰に回せばいいですか」と聞くと、先輩は手を止めて答えます。請求書の回し方を書いたマニュアルは、共有フォルダに入っています。

マニュアルが読まれない原因は、置き場所・探し方・中身のどこかで、人が止まっていることです。人はこの順に通るので、置き場所か探し方で止まっている限り、中身をいくら書き直しても開かれません。

この記事の結論

  • マニュアルを開くまでに、人は置き場所・探し方・中身の3つの関所を順に通る
  • 9つの問いに、はい・いいえで答えると、どの関所で止まっているかが1つに絞れる
  • 直すのは、前から順に確かめて最初に「いいえ」が出た関所だけでよい
  • 置き場所で止まっているなら、仕事で使う紙や画面に、マニュアルの場所を書き込む

マニュアルが読まれない原因は3つの関所のどこか

仕事の途中で手が止まった人がマニュアルにたどり着くには、3つの関所を順に越える必要があります。

  1. 置き場所:仕事をしているその場で、マニュアルの入口(開くためのリンク・棚・貼り紙)に気づけるか
  2. 探し方:マニュアルを開いてから、目当てのページまで迷わずに行けるか
  3. 中身:開いたページを見て、その通りに作業できるか

どこかで止まった人は、近くにいる詳しい人に聞きます。聞けばその場で答えが返ってくるので、次に同じ場面が来たときも、行き先はその人です。

マニュアルが読まれない原因を絞る順番

関所には順番があるので、止まっている所を先に確かめれば、直す場所は1か所に決まります。確かめるのに使うのは、次の9問と、最近聞かれた質問1件です。

読まれない原因を絞る9問チェック

質問は1件だけ選びます。「請求書を誰に回すか」と聞かれたなら、その答えが載っているマニュアルについて、次の9問にはい・いいえで答えてください。

置き場所の3問

  1. その仕事をする机・端末・作業場所の近くに、マニュアルの入口があるか
  2. 仕事で使う申請書・チェック表・業務フロー図に、マニュアルの場所が書いてあるか
  3. 入って1か月目の人が、誰にも聞かずに入口までたどり着けるか

探し方の3問

  1. どのマニュアルも、見出しの順番と題名の付け方が同じ決まりでそろっているか
  2. マニュアルの最初のページの目次から、目当てのページに1回で行けるか
  3. 社内だけで通じる略語や呼び名に、説明が付いているか

中身の3問

  1. 開いたページに、何をどの順でやるかが1行に1つずつ書いてあるか
  2. 入って1か月目の人が、そのページだけで作業を終えられるか
  3. 載っている画面や様式が、今使っているものと同じか

答え終わったら、1問目から順に見ていき、最初に「いいえ」が出た関所を直します。置き場所に「いいえ」が1つでもあれば、探し方と中身は今は手を付けません。

答えに迷ったら、質問に来た本人に確かめるのが確実です。「マニュアルがあるのは知っていた?」「どこまで見た?」の2つを聞くと、止まった関所がほぼ分かります。

置き場所で止まる|仕事をする場所から入口が見えるか

置き場所の問いに「いいえ」が出たら、手を入れる先は入口で、マニュアルの本文はそのままです。私は、マニュアルは見える場所に置き、仕事の流れの中で使う場面に組み込むものだと考えています。共有フォルダの奥に入っているだけでは、困ったその場で思い出してもらえません。

入口を置く場所の候補は、その仕事で必ず使う紙や画面です。

  • 申請書や伝票の余白に「回し方:経理>03請求書 2ページ」と1行入れる
  • 毎日使うチェック表の各行の右端に、その作業のマニュアルのページを書く
  • 業務フロー図の工程の箱の下に、その工程のマニュアルの名前を書く

仕事で使う紙にマニュアルの場所を書いた見本

業務フロー図がまだない会社は、工程を書き出すところから始めると、入口を置く場所も同時に決まります。工程ごとに手順書を用意していく順番の決め方は、業務フローの手順書の作り方の記事で説明しました。

口頭で仕事を頼むときも、マニュアルの場所を伝える機会になります。頼んだ仕事のマニュアルがあるなら、指示と一緒にその場所を伝えてください。指示の中身を書いて渡す方法は、仕事の指示が伝わらない原因の記事にまとめました。

探し方で止まる|題名と目次を現場の呼び名にそろえる

探し方の問いに「いいえ」が出たら、マニュアルを開いてから目当てのページまでの道を短くします。私はマニュアルの探しやすさを、書式(Format)・目次(Index)・用語の説明(Glossary)の3つで見ています。

書式がそろっていると、どのマニュアルでも、手順が何番目の見出しにあるかで迷いません。マニュアルの題名とファイル名は「経理_03_請求書の回し方」のように、部署・番号・仕事の名前の順で付けます。目次の項目は、現場で口にしている仕事の名前で書きます。経理の担当者が「支払処理」と呼んでいても、現場で「請求書回し」と言っているなら、目次に載せるのは「請求書回し」です。

略語や社内の呼び名は、ページの最後にまとめるより、初めて出てきた行のすぐ後に短い説明を付けるほうが探す手間が減ります。他社から移ってきた人が目次で探すのは、前の職場での呼び名です。中途採用が即戦力にならないときに渡す前職との違いの1枚に、呼び名の対応も1行ずつ入れておくと、目次で迷う回数が減ります。

マニュアルを入れているフォルダに同じ仕事の新旧のマニュアルが何本も並んでいる場合は、目次を直す前に本数を減らします。マニュアル整理で使われているものと使われていないものを分けてから、残した1本の目次を直してください。

中身で止まる|開いた人がその通りにできるか

中身の問いに「いいえ」が出たときが、本文に手を入れる番です。書き直す行を探すときに当てる問いは、「それ、新人にできますか?」です。書いた人には当たり前の動作が抜けていると、新人はその行で止まって、聞きに来ます。

直すときの決まりは、1行に動作を1つだけ書くことです。「伝票を確認して回す」は、「伝票の金額と発注書の金額が同じかを見る」「同じなら、右上に確認の印を押す」「経理の箱に入れる」の3行に分けます。分けると、どの行で止まったかを本人が指させるようになります。

使う人に日本語が母語でない人がいる職場では、外国人スタッフのマニュアルの作り方にある、やさしい日本語への置き換えも、中身の関所で直す範囲です。8問目を、その人に実際に試してもらって答えてください。

9問目で確かめる画面や様式が今と違っていると、一度でも食い違いに気づいた人は、そのマニュアルを開かなくなります。画面が変わった行だけを先に直し、直した日付をページの最初に書いておくと、見る人がそのページの新しさを判断できます。間違いが起きたときも、ミスの再発防止の手順書の見直し方で直す行を決めれば、中身が今の仕事からずれにくくなります。

中身のどこが分かりにくいかを自分で見つけにくいときは、マニュアル品質診断ツールにファイルを入れてみてください。再現性や検索性などの観点から書き方の評価が返ってきます。PDF・Word・テキストのファイルに対応し、費用はかかりません。診断に使ったファイルは、処理のあとで破棄されます。

よくある手当てと、効く関所の比較

マニュアルが読まれないときによく取られる手当ては、どれも3つの関所のうち1つにしか効きません。

よくある手当て 効く関所 止まっている関所が別のときに起きること
図や画面の写真を増やす 中身 入口が見えないままなら、増やした図も見られない
マニュアル作成ツールや社内サイトに移す 探し方 仕事の紙や画面に入口がなければ、移した先を開きに行かない
朝礼や研修で「ここにある」と伝える 置き場所 場所を知っていても、目次や中身で止まれば目当ての作業までたどり着けない
全部を書き直す 中身 探し方で止まっていれば、書き直したページまで行き着かない

どの手当ても、効く関所で止まっている会社には役に立ちます。9問で止まっている関所を先に確かめてから、手当てを選んでください。

マニュアルが読まれないときのよくある質問

聞きに来た人にはその場で答え、確かめるのは聞かれる回数の多い仕事のマニュアルからです。

Q1. マニュアルは紙と共有フォルダのどちらに置けばよいですか?

どちらでも、その仕事をする場所から見えるほうに置きます。作業場で手が汚れる仕事なら、壁に貼った紙が入口になります。パソコンで進める仕事なら、毎日開く画面からのリンクが入口です。両方に置く場合は、紙に「最新はフォルダのこのファイル」と書いておき、古い紙が残らないようにします。

Q2. 聞きに来た人には、答えないほうがよいですか?

いいえ、答えてください。仕事を止めないことが先決です。答えたあとに、その答えが載っているページを一緒に開き、どの関所で止まっていたかを本人に聞きます。年末のように短期のスタッフが一度に入る時期は、聞かれる回数が増えます。短期のスタッフに任せる仕事と社員が持つ仕事の分け方は、繁忙期の短期スタッフの教え方を参考にしてください。

Q3. マニュアルが何十本もあります。どれから確かめればよいですか?

聞かれた質問を、日付と中身だけでよいので1週間メモしてください。いちばん多く聞かれた仕事のマニュアルが、最初に確かめる1本で、9問チェックに使う質問もそのメモから選べます。

Q4. マニュアルがまだ1本もない会社でも、9問チェックは使えますか?

いいえ、9問はマニュアルがある会社向けです。1本もない会社は、聞かれている仕事を書き出すところから始めます。書き出しを30分で区切り、最初に手順書にする仕事を1つ決める進め方は、業務の洗い出し方法で説明しています。

まとめ|最初に「いいえ」が出た関所を1つ直す

次に誰かが聞きに来たら、答えたあとで、その仕事のマニュアルについて9問に答えてみてください。置き場所・探し方・中身の順に見て、最初に「いいえ」が出た関所を1つ直せば十分です。

直したら、同じ質問がまた来るかを1週間見ます。来なくなれば次に多い質問へ進み、まだ来るなら次の関所へ進みます。

聞かれる仕事が多く、どこから手を付けるか決めきれない場合は、2.1にご相談ください。聞き取りから、マニュアルの入口をどこに置くかまでを一緒に決めます。

直す関所が決まったあとに

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