見積を出せるのが社長かベテラン営業の1人だけだと、その人が外出している日は見積が1件も出ません。金額のルールを一から決める時間はなく、取引先には返事を待ってもらうことになります。

見積の属人化を解消するには、次に送る見積から、金額をどう決めたかを1件ずつ書き残します。金額を決めるための表は、書き残した10件から作るものです。

この記事の結論

  • 単価×数量の計算は誰でもできるが、値引き・上乗せ・含めるか外すかの判断(決め手)は1人の頭の中にしかない
  • 次に送る見積から、送った直後に6つの欄の「根拠メモ」を1件ずつ書く
  • 10件たまったら、2回以上出た決め手を「決め手の表」の行に上げ、1回だけのものは例外メモとして残す
  • 10件のうち1件を新人に渡し、表の行だけでその見積の決め手を説明できるかで確かめる

見積の属人化とは|計算できる部分と頭の中の決め手

見積の属人化とは、見積の金額を決めた理由が1人の頭の中にしかなく、その人がいないと見積を出せない状態です。

見積の中身は2つの層に分かれます。1つは、定価表の単価に数量を掛ける、作業の人数に日数を掛ける、といった計算できる部分です。もう1つは金額の決め手で、どの単価を使うか、いくら値引きするか、何を見積に含めないかを指します。

単価の出どころ、工数の見積もり方、値引きや上乗せの理由が、どれも決め手にあたります。

見積の計算できる部分と頭の中の決め手

計算できる部分は、定価表と電卓があれば誰が担当しても同じ金額になります。見積が1人にしか出せないのは、決め手が書かれていないからです。

決め手の書き残し方には、価格表や値引きのルールを先に作る進め方もあります。例外の少ない見積なら、その順で進められます。

ただ、取引先ごとの事情で金額を変える見積が多いと、先に作った表には埋まらない欄が残ります。2.1の進め方は、送った見積の記録をためてから表を作る順です。

値引きや納期の確認が社長に集まる会社なら、社長が現場から抜けられない理由の手順で、届く確認そのものを減らせます。

社長だけが見積を出していて、いずれ会社を後継者に引き継ぐ予定があるなら、見積の出し方は先に書き残しておきたい仕事です。社長の仕事全体を書き出す手順は、事業承継前の業務の見える化にまとめています。

見積の根拠メモ|送った直後に書く6つの欄

見積の決め手は、送った直後に1件ずつ「根拠メモ」へ書けば、見積を出す手を止めずに残せます。根拠メモは、1件分を書く6つの欄です。

根拠メモの6つの欄

見積を作る途中では書きません。送った直後なら、どの過去の見積を開いたかも、誰に何を聞いたかも覚えています。

欄 書くこと
①依頼の中身 何の見積か(一言)
②金額の決め手 単価や工数を、どこから持ってきたか
③流用した過去の見積 開いて写した見積(なければ「なし」)
④上げ下げした額と理由 値引き・上乗せの額と、そうした理由
⑤見積に含めなかったもの 外した作業や費用と、外した理由
⑥迷った点と聞いた人 迷ったこと、相談した相手(いなければ「自分で決めた」)

欄を6つ、表に上げる区切りを10件と2回にしたのは2.1の整理で、官公庁や業界が決めた基準ではありません。

1つの欄に書くのは1〜2行です。文になっていなくても、欄が埋まっていれば足ります。根拠メモの書きぶりは粗くてよいので、空欄を作らないことを優先します。私がマニュアルを作るときも、最初は30〜40点の出来で現場に出してきました。

根拠メモは、ベテランが見積1件ごとに決め手を書き取る道具です。本人が書けない欄の聞き取りには、技能伝承のマニュアル化の聞き方がそのまま使えます。

根拠メモの記入例(3件)

次の3件は架空の例で、物品・工事・サービスの見積を1件ずつ想定して書きました。

欄 1件目(物品) 2件目(工事) 3件目(サービス)
①依頼の中身 消耗品50個の納入 事務所の小規模な改修 設備の定期点検(年4回)
②金額の決め手 単価は定価表 工数は似た改修の実績から3人日 2名で半日、前年の点検と同じ
③流用した過去の見積 なし 別の取引先の改修の見積 同じ取引先の前年の見積
④上げ下げした額と理由 5%引き(数量) 1割上乗せ(急ぎの依頼) 据え置き(材料費の値上がり分は乗せない)
⑤見積に含めなかったもの 送料(取引先が引き取り) 廃材の処分費(別の見積にした) 夜間作業の割増(日中で収まる)
⑥迷った点と聞いた人 端数を切るか(自分で決めた) 急ぎの分を上乗せするか(社長に聞いた) 値上がり分を上乗せするか(社長に聞いた)

3件目の④には、金額を上げなかったことも決め手として書いています。値上がりを知っていて乗せなかったのか、気づかずに乗せなかったのかは、後から見積書を見ても分かりません。

根拠メモを10件ためる|書く人と置き場所

根拠メモを書くのは、その見積を送った本人です。ベテランが送った見積はベテランが書き、若手が送った見積は若手が書きます。

置き場所は1か所に決めます。共有の表計算ファイルなら1件を1行に、フォルダなら1件を1ファイルにします。1か所にするのは、メールや手帳に分かれると、10件を並べる日に集め直す手間がかかるからです。

書けない欄は、空欄にせず「理由を言えない」と書きます。「理由を言えない」は、書いた本人も決め手を言葉にできていない印です。10件を並べたとき、誰のどの欄を聞き取ればよいかが分かります。

10件たまるまでの期間は、見積の件数が会社ごとに違うので決めていません。見積の種類が多い会社なら、1種類の見積に絞って書き始めてもかまいません。

古い見積の手順書や価格表のファイルが、共有フォルダにいくつも残っていることがあります。その場合は先にマニュアル整理で、今使っている版とそうでない版を分けてください。③に流用元を書くとき、どれが今の版かで迷わずに済みます。

注意

値引きの額や取引先ごとの事情が書かれるので、根拠メモは次のとおりに扱ってください。

  • ファイルを開ける人を、見積を出す人とその上長に絞る
  • 取引先の担当者の個人名は書かず、取引先名までにとどめる
  • 根拠メモの画面や紙を、そのまま社外に出さない

10件ためた後|2回以上出た見積の決め手を表に上げる

決め手の表に入れるのは、10件の根拠メモのうち2件以上に出た決め手だけで、1回だけのものは表の外に残します。

2回以上出た決め手を表の行にする

10件の根拠メモを1枚の表に貼り並べ、②〜⑥の欄ごとに同じ決め手に印を付けていきます。言葉が違っても中身が同じなら、同じ決め手として扱ってください。

印が2つ以上付いた決め手は、「決め手の表」に1行ずつ書き写します。この1行が「表の行」です。印が1つだけの決め手は「例外メモ」として、根拠メモに残します。

10件の根拠メモから表の行と例外メモに分ける流れ

たとえば「急ぎの依頼は1割上乗せ」が10件のうち2件に出ていれば、表の行に上げる対象です。表の行に、出てきた根拠メモの番号を添えておけば、後で元の見積をたどるのも楽です。

⑥の欄で同じ迷いが2回出たときは、その迷いを表の行にして、答える人を1人決めて行に書きます。

記入例の2件目と3件目は、どちらも上乗せするかで迷って社長に聞いた件です。急ぎと値上がりで理由は違いますが、どちらも「上乗せするか」の迷いとして同じ行にまとめられます。上乗せするかどうかを答える人は、社長のままにするか営業の責任者に任せるか、表の行に書く前に決めます。

例外メモは捨てません。次の10件で同じ決め手がもう1回出れば、その時点で表の行に上げます。

チェック

表を新人に渡す日の朝に見ておくのは、次の3点です。

  • 同じ決め手が、言葉を変えて2行に分かれていないか
  • 「理由を言えない」と書かれた欄を、誰にいつ聞き取るか決めたか
  • 表の行に、取引先の担当者の個人名が入っていないか

表の行は新人に渡して確かめる

表の行ができたら、見積を出したことのない新人か若手を1人選びます。10件のうち1件について、取引先から届いた依頼の文面を渡します。文面は数量・納期・条件が分かるものにして、表の行を見ながら、その見積の金額の決め手を説明してもらう流れです。

新人が手を止めた行は、ベテランには分かっても、書いた言葉だけでは伝わらない行です。「それ、新人にできますか?」の答えが「いいえ」だった行なので、止まった所を新人に聞いて、足りない条件を1行書き足します。

表の行と例外メモがそろったら、見積を作る流れと合わせて手順書1枚にまとめます。見積の流れを工程に分け、決め手を使う工程に手順書を当てる方法が、業務フローの手順書の作り方にあります。

見積の金額を転記するときに桁や単位を誤ったら、手順書の転記の段に確かめ方を1行加えてください。出たミスから直す行を見つける手順は、ミスの再発防止の手順書にまとめています。

見積のほかにも、1人にしか回せない業務が社内に残っている会社があります。どの業務がそうかを一覧にするには、業務の洗い出し方法の手順を使ってください。

まとめた手順書をマニュアル品質診断ツールに入れると、手順書としての書き方の評価が返ってきます。

見積の属人化を解消するときの質問とまとめ

見積システムを入れる予定の会社も、ベテランが書きたがらない会社も、根拠メモは次の見積1件から始められます。

Q1. 見積システムを入れてからではだめですか?

だめではありませんが、システムに入れる単価や値引きの条件は、決め手が書かれていないと決まりません。根拠メモを10件ためておけば、決め手の表がそのまま設定を決める材料になります。システムの選び方は、表ができてから考えても間に合います。

Q2. ベテランが根拠メモを書いてくれません

最初にやることは、書く量を減らすことです。6つの欄を1行ずつにし、書けない欄は「理由を言えない」で済ませてもらいます。それでも手が止まるなら、見積を送った日に若手が横で聞き、ベテランの言葉のまま書き取ってください。

まとめ|次の見積1件から6つの欄を書く

次に見積を送ったら、その日のうちに根拠メモの6つの欄を書いてください。10件たまった日に②〜⑥を並べ、2回以上出た決め手を表の行に、1回だけのものを例外メモにします。表の行を新人が説明できたら、見積は1人に頼らずに出せる状態に近づいています。

決め手の聞き取りや手順書への書き起こしは、2.1にご相談いただける業務の見える化の一部です。マニュアル作りの進め方をまとめた2.1の資料は、資料ダウンロードのページに置いています。

決め手の表ができたら

見積の手順書を診断する

表の行と例外メモを手順書1枚にまとめた後に使えます。根拠メモは診断の対象に入りません。

見積の見える化を相談する

内容を確認後、担当者よりご連絡いたします。