社長から「申請を出してから決裁が下りるまでが遅い。承認を減らせないか」と言われても、承認の経路図を開くだけでは、どの承認者を外せばよいかは分かりません。経路図には、どの申請がどこで何日止まっていたかが書かれていないからです。

承認者を減らすところから手を付けても、外した人の机で止まっていたのでなければ、決裁までの日数はほとんど変わりません。先にやるのは、遅れた申請を1件選び、起票から決裁までの時刻を順に書き出すことです。

この記事の結論

  • 承認フローの見直しは、経路図より先に、遅れた申請1件の時刻を起票から決裁までたどる
  • 区間ごとの待ちに「開かれていない」「判断を待つ」「戻されて直す」のどれかの印を付ける
  • 同じ経路の申請をあと2件たどり、3件とも長かった区間を仕組みの問題として扱う
  • その中で一番長い区間から直し、承認者の数を減らすかどうかは最後に決める

中小企業の承認フローの見直しは申請1件から

承認が遅いと言われたとき、真っ先に出る案は、承認者を1人減らすか、経路を短くすることです。けれど、どこで止まっていたかを確かめずに1人外しても、止まっていたのが残った承認者の机なら、日数はほとんど縮みません。

申請の足跡は、申請1件がいつ誰に渡り、いつ開かれ、いつ判断され、いつ戻ったかを、時刻の順に書いた1枚です。2.1が承認フローの見直しで最初に勧める作業は、この1枚を書くことです。

差し戻しのコメントを集めて分類するやり方もありますが、コメントが残るのは戻された申請に限られます。足跡では時刻をたどるので、誰も開かなかった日数や、判断を待っていた日数まで分かります。

ワークフローのシステムで、承認にかかった時間を集計する方法もあります。足跡は、システムを入れる前の会社でも、メールとチャットの日時から1件ずつたどれるのが違いです。

承認の依頼が社長1人に集まっている会社では、社長が出張する週に申請がまとめて止まります。社長に届く確認を数えて減らす手順は、社長が現場から抜けられない理由で説明しました。

足跡をたどる申請は直近で一番遅れた1件

選ぶのは、直近で一番時間がかかった申請1件です。金額の大きさは問いません。備品の購入や交通費の精算のような小さな申請は、経路が短いぶん書き出しやすくなります。

決裁まで済んでいて、メールやチャットの日時が消えずに残っている申請を選びます。途中で取り下げた申請は、止まった理由が別にあるので対象外です。

思い出せないときは、申請をよく出す人に「最近いちばん待たされた申請は」と聞くと、候補が挙がります。

申請の種類が多すぎて、社内にどんな申請があるのかもつかめていない会社もあります。その場合は、業務の洗い出し方法の進め方で申請の名前を書き出してから、1件を選んでください。

申請の足跡を時刻の順に書き出す

足跡の1行に入るのは、日時と、誰が何をしたかです。拾うのは、申請者が送った時刻、承認者が開いた時刻、判断した時刻、差し戻した時刻、出し直した時刻です。記憶で埋めず、実際に残っている日時を写します。

チェック

日時が残っている場所

  • メール:送った日時。開封の確認を付けていれば、開いた日時
  • チャット:投稿の日時。ツールで分かる場合は、既読が付いた時点
  • ワークフローのシステム:承認と差し戻しのボタンを押した日時
  • 紙の回覧:押印の日付。時刻がない区間は日付だけで書く

開いた時刻が残っていない区間は、推測で埋めずに「不明」と書きます。「不明」の区間が長く続くなら、開いたかどうかを誰も確かめられない状態です。

次の記入例は、課長と部長の2人が承認する備品の購入申請を想定した架空のものです。日時や金額は、実在の会社の記録ではありません。

  1. 月曜 10:00 申請者が、モニター1台(3万円)の購入申請を課長にメールで送る
  2. 水曜 16:00 課長がメールを開く(前の行から2日6時間)
  3. 木曜 11:00 課長が「型番を選んだ理由を書いて」と差し戻す(19時間)
  4. 金曜 9:00 申請者が理由と見積を添えて出し直す(22時間)
  5. 金曜 14:00 課長が承認し、部長へ回す(5時間。課長が開いた時刻は不明)
  6. 金曜 17:00 部長が承認し、決裁が下りる(3時間。部長が開いた時刻は不明)

承認の待ちを3種類に分ける

足跡の区間の待ちは、開いた時刻が分かれば、開かれていない待ち、判断を待つ待ち、戻されて直す待ちのどれかに入ります。この3種類の分け方と、次に書く読み替えは2.1の整理で、法令やガイドラインの用語ではありません。

待ちの種類 足跡での見え方 直す先
①開かれていない待ち 届いた時刻から、開いた時刻まで 届く場所と、見る時刻
②判断を待つ待ち 開いた時刻から、承認か差し戻しまで 判断の基準、代理者、判断の期限
③戻されて直す待ち 差し戻しから、出し直しまで 申請書の欄

私はこれまで、仕事から「悩む・迷う・やり直す」を減らす道具としてマニュアルを作ってきました。承認の遅れに当てはめると、①は承認者が迷う前の、申請がまだ目に入っていない時間です。②は承認者が迷う時間で、③は申請者がやり直す時間です。

記入例では、月曜10時から水曜16時までが①、水曜16時から木曜11時までが②、木曜11時から金曜9時までが③に入ります。金曜9時からの5時間と最後の3時間は、開いた時刻が分からないので「不明」のまま残します。

決裁までの4日7時間のうち、半分を超える2日6時間は、課長がメールを開く前の待ちでした。部長の承認にかかったのは3時間です。部長を経路から外しても、縮むのは3時間だけです。

申請の足跡の記入例(架空)

足跡を3件そろえて仕組みの遅れか見分ける

1件の足跡には、その申請だけの事情が混ざります。承認者が出張していた週の申請なら、①が長いのは出張のためです。

そこで、同じ経路を通る別の申請をあと2件たどり、3件を見比べます。3件とも同じ区間が長ければ、その区間は仕組みの問題です。1件だけが長ければ、その1件の事情として記録に残し、経路は変えません。

足跡のとり方が合うのは、申請がメールやチャット、システムで回り、日時が残っている会社です。口頭の「いいよ」で決裁している申請は時刻が残らないので、申請を文字で出す決まりを作るところから始めます。

一番長い待ちから承認フローを直す

3件とも長かった区間のうち、待ち時間が一番長い区間から直します。記入例の申請と同じ経路のあと2件でも①が長ければ、先に直すのは課長がメールを開くまでの①です。

①開かれていない待ちは届く場所を直す

①が長いときは、申請が承認者の目に入る場所に届いていません。1日に何十通もメールを受け取る承認者なら、申請はほかのメールに埋もれます。

直し方は、申請の届く場所を1か所に決め、承認者がその場所を見る時刻を決めることです。見る時刻は、まず始業時と昼休み明けの1日2回にするのが2.1の目安です。

②判断を待つ待ちは基準と代理者を決める

②が長いときは、承認者が判断の材料か基準を探している状態だと読めます。予算が残っているかを経理に聞く、同じ品を前に買ったかを調べる、といった確認が、承認者の手元で毎回くり返されています。

判断の基準を1行で書き、不在のときの代理者と、開いてから何日以内に判断するかの期限を決めるのが、②の直し方です。

ポイント

判断の基準を1行ずつ書いた例(架空)

  • 5万円未満の備品で、部の予算が残っていれば、課長が開いた日のうちに承認する
  • 課長が不在の日は係長が代わりに承認し、課長には翌日に報告する
  • 開いてから2営業日たっても判断がつかない申請は、部長に回す

過去の申請で承認者が何を見て決めたかを書き残していくと、判断の基準を1行にまとめられます。決めた理由を1件ずつ書き残し、あとで表にまとめる進め方は、見積の属人化を解消する手順と同じ形です。

誰が、何を、いつまでに次の人へ渡すかを1枚の表にする書き方は、フリーランス法の発注手順書の受け渡し表で説明しています。法律に関する部分を除いても、期限の決め方は、承認の経路でもそのまま使える形です。

③戻されて直す待ちは申請書の欄を直す

③が長いときは、承認者が毎回聞くことが、申請書の欄にない状態です。記入例で課長が求めた「型番を選んだ理由」は、これに当たります。

③の差し戻しは、承認者が求めている中身が申請者に伝わっていないときに増えます。差し戻すときのコメントは、何を、どの形で直してほしいかまで書いて返します。差し戻しのコメントを、受け取った人が動ける指示に書き直す考え方は、仕事の指示が伝わらない原因と同じです。

戻された理由を差し戻しのたびに1行ずつメモしておき、同じ理由で2回戻ったらその理由を申請書の欄に足します。

承認者の数を減らす話は、①から③を直してからです。直したあとの足跡でも、承認の段が多いぶんだけ決裁まで日数がかかっているなら、そのときに外す承認者を決めます。

見直しの結果、決裁の権限や金額の上限そのものを変える場合は、社内の規程を変える手続きになります。変える前に規程の条文を確かめ、判断に迷う点は弁護士などの専門家にご確認ください。

直した承認フローを業務フロー図にして置く

直した経路を書く先は、申請の種類ごとに1枚の業務フロー図です。承認者ごとに横の帯(レーン)を引き、帯の中に、届く場所・判断の基準・判断の期限・代理者を書き込みます。

図を描いたら、工程ごとの手順を別の紙に書いていきます。図と手順書を工程の番号でつなぐ方法は、業務フローの手順書の作り方で説明しました。

図を置くのは、申請者が申請書を開く場所です。申請書の様式と同じフォルダに入れ、様式の1行目に図の場所を書いておくと、申請のたびに目に入ります。共有フォルダの奥に置いた文書が開かれない理由を確かめる順番は、マニュアルが読まれない原因に書きました。

図を直すのは、経路を変えた人です。承認者が替わった日や基準の金額を変えた日に、帯と書き込みを直し、直した日付を図の右上に残します。

承認フローを直して1か月ほどたったら、申請を1件選んで足跡をとり直し、直した経路のとおりに回っているかを確かめます。

申請の手順書の書き方を、下書きの段階で確かめるのに使えるのがマニュアル品質診断ツールです。手順書のファイル(PDF・Word・テキスト)を入れると再現性や検索性といった観点で評価が出て、料金はかかりません。入れたファイルは、処理を終えると破棄されます。

承認フローの見直しでよくある質問

ワークフローのシステムを入れる前でも、メールとチャットの日時があれば足跡はとれます。

Q1. ワークフローのシステムを先に入れるべきですか?

いいえ。答えは、先に足跡を3件とることです。システムに移すと、送った・開いた・承認した時刻が自動で残り、①は短くしやすくなります。一方で、②の判断の基準と③の申請書の欄は、社内で決めて画面に書き込むまで空のままです。入れる前は足跡で直す区間を決め、入れたあとは画面に残る時刻で3件をたどり直します。

Q2. 承認者が不在のときは、どうすればよいですか?

不在の日に代わりに承認する人と、代わりに承認したことを本人に伝える期限を、業務フロー図の帯に書いておきます。代理者が判断に迷ったときに見るのは、②で書いた基準の1行です。

Q3. 承認者はどこまで減らしてよいですか?

①から③を直したあとの足跡で、一度も差し戻していない承認者が外す候補になります。外すかどうかは、その承認者が見ている点を、前後の承認者も見ているかで決めます。決裁の権限にかかわる段は、規程を確かめてから決めてください。

まとめ|次に遅れた申請を1件たどる

次に「承認が遅い」と言われたら、直近で一番時間がかかった申請を1件選び、起票から決裁までの時刻を書き出してください。区間に①②③の印を付けたら、同じ経路の申請をあと2件たどります。

3件とも長かった区間のうち一番長い区間から直し、直し方を業務フロー図に書き込んで、申請書の様式の隣に置いてください。

業務フロー図を描けたら、次は申請の手順書を書き、下書きの段階で診断ツールに入れて書き方を確かめます。

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