お客様への予約の返信メールで、予約日を1日ずらして案内するミスが起きた。翌朝の朝礼で「日付の確認を徹底しよう」と伝え、返信前のチェック表に確認欄を1つ足した。数週間後、別の担当者が同じように日付をずらして送った。
手順書には「予約日を確認して返信する」という1行があります。それでも、ミスのあとでこの行を読み返した人はいませんでした。同じミスが繰り返されるたびに誰かを責めても次の1件は防げないことを、管理する側も分かっています。
この記事の結論
- ミスの再発防止が注意喚起や始末書で終わるのは、ミスが手順書のどの行で起きたかを確かめていないから
- ミス1件を人名なしで事実だけ書き、手順書の該当する行と突き合わせる(事実を行に当てはめて確かめる)
- 突き合わせると、「その行がなかった」「読み方が分かれた」「守りにくかった」のどれに当たるかが分かる
- 直し方は「書き換える」「作業に組み込む」「外す・入れ替える」から選び、確認欄を足すのは最後にする
- 直した行には直した日と理由を1行残し、同じ作業をする担当者に試してもらってから、見直す日を決める
ミスの再発防止が注意喚起と始末書で終わる会社
ミスのあとに注意喚起や始末書で区切りをつけても、手順書の行が元のままなら、次の担当者も同じ行に沿って作業します。
冒頭の予約の返信も、ここに並べる場面も、架空の作業をもとに組み立てています。
- 朝礼で「確認を徹底する」と伝えて、その日の話は終わる
- 本人が始末書と再発防止策を書いて提出し、手順書には何も書き足されない
- チェック表に確認欄や承認の欄が1つ増え、作業にかかる時間だけが延びる
- 数週間後に別の担当者が同じ種類のミスをして、「あの人は慎重さが足りない」と話が人に戻る
どの場面でも、ミスの話は人への注意で終わり、手順書には何も書き足されていません。
ミスの再発防止で手順書に届かない3つの対応
3つの対応はどれも人への対応で終わり、ミスの情報を手順書の該当行に書き戻す手順がありません。同じミスが別の担当者にも起きるなら、原因を探す先は手順書と作業の組み立て方です。
①注意喚起で収める
朝礼で「気をつけよう」と伝えた週は、全員がその作業を意識します。翌週には別の仕事に追われ、その意識も少しずつ薄れていくものです。
厚生労働省の職場のあんぜんサイトは、人が行う以上、どれだけ訓練しても間違いは避けられないと書いています。IPA(独立行政法人情報処理推進機構)の報告書も、当事者の意識に働きかける再発防止策について書いています。「周知徹底する」「注意喚起する」「教育する」などは、効果が限定的なものが散見されるという指摘です(PDF p2)。
同報告書が対象にしているのは、SI(システム構築)事業でのSE作業の事故です。この記事では、再発防止策が人への呼びかけに寄りやすいという点を、ほかの仕事にも通じるものとして扱います。
出典:厚生労働省 職場のあんぜんサイト「ヒューマンエラー」(安全衛生キーワード)/IPA「先進的な設計・検証技術の適用事例報告書 2017年度版」SEC-2017-86-01「ヒューマンエラーによる失敗・事故の分析手法」(PDF)
②確認欄を足し続ける
ミスのたびに確認欄を1つ足せば、チェック表の行は増える一方です。行が増えるほど1つの作業にかかる時間は延び、忙しい日には確認欄に印だけを付けて先へ進む人が出てきます。
足した確認欄がどの場面の間違いを防ぐのかを確かめないまま、欄の数だけが増えていきます。どの確認欄が要るかを決めるのは、この先の手順3で行を直したあとです。
③手順書に戻らず人に戻る
ミスの報告が「誰がやったか」から始まると、話し合いは本人の事情と反省で埋まりがちです。その間、手順書の該当する行を読み返す人はいません。
次に同じ作業を担当する人は、ミスが起きたときと同じ手順書を受け取ります。
マニュアル品質診断ツールが評価するのは、すでにある業務マニュアルのファイルです。ミスが起きた作業の手順書も、Word・PDF・テキストのファイルなら読み込めます。
ミスの再発防止は手順書のどの行で起きたかを突き合わせる
ミスを「誰がやったか」の話から「手順書のどの行で起きたか」の話に置き換えると、直す場所が手順書の1行に絞れます。ここでいう行は、手順書の中で1つの動作か判断を書いた1行で、文章で書かれた手順書なら1文のことです。手順書は、紙でも共有ファイルでも、作業のやり方を順に書いたものを指します。
厚生労働省の同サイトは、ヒューマンエラーを「意図しない結果を生じる人間の行為」と説明しています。見間違えた、やり忘れたのように、結果がよくなかったときに後から呼ばれる出来事です。予約日のずれのようなミスも、これに当たります。ここで扱うミスは、手順書どおりに進めれば防げたはずの間違いとやり忘れで、わざと手順を守らない場合は含めません。
同サイトは、ヒューマンエラーを原因と見ずに結果と見ると納得できる、とも書いています。ミスが結果なら、原因を探す場所は、その手前にある手順や仕組みの側です。同サイトの整理は労働安全の分野のものなので、ここでは考え方だけを借りて手順書の行に当てはめます。同サイトが挙げる防止の方策は、次のとおりです。
- 1)人が間違えないように人を訓練する
- 2)人が間違えにくい仕組み・やりかたにする
- 3)人が間違えてもすぐ発見できるようにする
- 4)人が間違えてもその影響を少なくなるようにする
朝礼の注意喚起は、このうち1)の訓練にあたります。2)から4)は、手順書の行の書き方や順番に落とし込めるものです。
IPAの同報告書は、医療分野の文献を引いて、人より環境を変えるほうが効果的とされていると書いています(PDF p2)。同報告書のp12には、SE作業の事故分析に手法を試した結果も載っています。再発防止策の案が環境の側へ向かい、人に向けた対策が減る傾向が見られたという報告です。

ミスの再発防止で手順書を直す5つの手順
現場の責任者が、ミス1件ごとに、事実の記録から行の見直しまでを一続きで進めます。

手順1|ミス1件を人名なしで事実だけ書く
担当:現場の責任者(書く人)
ミスの報告を受けたら、その日のうちに1件だけ書きます。同じ時期に起きたほかのミスとはまとめず、1件ずつ扱います。
書く時間は15分で切り上げます。この段階で欲しいのは、手順書と突き合わせられる材料だけだからです。予約の返信の例なら、書く中身は次の2行で足ります。
- 火曜の午後、来店予約への返信メールで、予約日を1日後ろにずらして案内した
- お客様から届いた確認の電話で分かった
チェック
ミスの事実に書くこと・書かないこと
- 書く:いつ、どの作業の、どの場面で、何が起きたか
- 書く:ミスに気づいたきっかけ
- 書かない:人の名前、「うっかり」「不注意」などの言葉
手順2|手順書の該当行と突き合わせる
担当:現場の責任者(突き合わせる人)、ミスのときの作業者(事実を書き足す人)
記録した事実をもとに手順書を開き、ミスが起きた場面にあたる行を探します。作業者には、その場面で実際にどう動いたかを話してもらい、事実に書き足します。突き合わせの結果は、次のどれかです。
- その行がなかった:手順書に、その場面の動作が書かれていない
- 読み方が分かれた:行はあるが、「確認する」のような言葉が指す動作を、人によって違う意味に受け取った
- 守りにくかった:行はあるが、実際の作業の流れでは、その行が飛ばされたり後回しになったりする
手順書そのものがない会社は、「その行がなかった」として扱います。作業者が口頭で教わった手順のうち、その場面の1行だけを書き出すところから始めます。
突き合わせで検討するのは手順書の該当行で、作業者の反省を聞く場にはしません。予約の返信の例では、「予約日を確認して返信する」という行があったので「読み方が分かれた」に当たります。予約日を照らす元が、カレンダーを見る人と、お客様のメールを読み返す人で異なっていました。

手順3|直し方を3つから選ぶ
担当:現場の責任者(選ぶ人)、総務(同じ行を使うほかの手順書がないかを確かめる人)
突き合わせの結果に合わせて、直し方を選びます。
- ①書き換える:あいまいな行を、動作と数・基準が分かる書き方に直す。行がなかった場合は、新しく1行書き足す
- ②作業に組み込む:間違えにくい形や、間違えてもすぐ気づける形を、作業の流れの中に入れる
- ③外す・入れ替える:要らない行を外すか、行の順番を入れ替えて、間違いが起きる場面をなくす
どれを選ぶ場合も、確認欄を足すのは最後です。①から③で同じミスを止められないと分かったときに、初めて確認欄を足します。
予約の返信の例は「読み方が分かれた」に当たるので、①の書き換えを選びました。直した行は「予約日と曜日をメールから写す」で、照らす元はお客様のメールです。日付だけを1日ずらして写すと、メールにある曜日とかみ合わなくなるので、送る前に気づけます。

手順4|直した行に理由を1行残して試す
担当:現場の責任者(理由を書く人)、同じ作業をする担当者(試す人)
直した行の横か下に、直した日と理由を1行書き添えます。「◯月◯日、予約日を1日ずらして案内したため」のように、何が起きて直したかが分かれば十分です。理由が残っていれば、あとで別の人がこの行を消したり変えたりするときに、残すべきかを判断できます。
書き換えたら、同じ作業をする担当者に、その手順書のとおりに1回通して作業してもらいます。読み方が分かれずに同じ動きになれば、その行はいったん仕上がりです。
1回の書き換えで仕上げきろうとせず、使いながら直し続ける前提で運用します。手順書は生き物なので、次のミスや現場の変化に合わせて、行が変わっていくのは自然なことです。
手順5|見直す日を決めておく
担当:現場の責任者(見直す日を決めて記録する人)
直した行を、いつ見直すかを決めます。同じ作業で次のミスが起きた日か、カレンダーに入れた定期の見直し日の、早いほうの日に、この行から見直します。間隔は、その作業の頻度に合わせて責任者が決めてください。
私が手順書で減らしたいと考えているのは、作業者が悩む・迷う・やり直す場面です。見直しの日には、直した行に沿って作業するときに、この3つが起きていないかを作業者に聞きます。どれかが残っていれば、手順2に戻って突き合わせ直すのが次の作業です。
ミスの再発防止で手順書の直し方を比べる
3つの直し方は、どの突き合わせの結果に向くかと、直したあとに確かめることが違います。
| 比較項目 | ①書き換える | ②作業に組み込む | ③外す・入れ替える |
|---|---|---|---|
| 合う突き合わせの結果 | その行がなかった/読み方が分かれた | 読み方が分かれた/守りにくかった | 守りにくかった |
| やること | 動作と数・基準が分かる書き方に直す。行がなければ1行書き足す | 間違えにくい形や、すぐ気づける形を作業の流れに入れる | 要らない行を外すか、前後の順番を入れ替える |
| 気をつけたい点 | 1行に動作を詰め込みすぎると、今度は読み飛ばされる | 確認欄を足すだけで済ませると、作業が重くなる | 外す前に、その行が何のためにあったかを確かめる |
| 直したあとに確かめること | 別の担当者が読んで、同じ動きになるか | 忙しい日でも、組み込んだ形が飛ばされずに回るか | 外した行の代わりに、別の困りごとが出ていないか |
| 厚労省の4つの方策との対応(この記事の整理) | 主に2)間違えにくい仕組み・やりかた | 2)と3)すぐ発見できる | 2)と4)影響を少なくする、に近い |
迷ったときに最初に試すのは①の書き換えです。③は、その行が何のためにあるのかを、責任者も作業者も説明できないときに検討します。
手順書の見直しが合う会社と別の手当てが要る会社
手順書の見直しで防げるのは、該当する行がない、読み方が分かれる、守りにくいことが原因のミスです。同じ種類のミスが繰り返され、手順書か口頭の手順があり、責任者が1件15分を取れる会社なら、手順1から進められます。
次の2つは、手順書の行を直すだけでは足りず、別の手当てが先に要ります。
- 故意に手順を守らない:同サイトは、わざと手順を守らない行為を「違反」と呼びます。ヒューマンエラーとは別に考えるのが普通とされ、ルールの周知や就業規則など、人事の領域で扱います
- 作業量に対して人手や時間が足りない:ミスが仕事の量から起きているので、人の配置と業務量の見直しが先です
注意
法令に関わる事故や、お客様・取引先に大きな影響が出た事故では、手順書の見直しは再発防止の一部にとどまります。対応の進め方は、弁護士・社会保険労務士などの専門家や、所管の窓口に相談してください。
ミスの再発防止と手順書についてのよくある質問
Q&Aのどの答えでも、最後に行の直し方を決めるのは現場の責任者です。
Q1. 手順書がない会社は何から始めればよいですか?
ミス1件の事実を書き、その場面について、作業者が口頭で教わっている手順を1行だけ書き出します(手順2の「その行がなかった」に当たります)。ミスが起きるたびに1行ずつ増やしていけば、最初から手順書の全体を作らずに始められます。
Q2. ミスをした本人に再発防止策を書かせてもよいですか?
事実を書き足してもらうのはよいのですが、再発防止策を本人だけに書いてもらうのは避けます。本人の役目は、手順2で事実を書き足すところまでです。直す行と直し方を決めるのは責任者です。本人だけで書くと、自分が注意するという話にまとまりやすく、手順書の該当行は検討されません。始末書を求めるかどうかは、社内の規程に沿った別の手続きとして扱います。
Q3. 確認欄を足してはいけませんか?
足せます。足すのは、①の書き換えと②の作業への組み込みを検討したあとです。確認欄だけを足しても、手順2で突き合わせた行が変わらないので、同じ場面で同じ読み違いが起きます。
Q4. 同じ人が同じミスを繰り返す場合は?
最初に突き合わせるのは、その人が担当する作業の流れと、手順書の該当行です。該当行の位置のせいで手順を守りにくくなっていれば、③の「外す・入れ替える」で直せます。それでも続く場合は、業務量や教え方、配置の話なので、手順書の見直しとは別の扱いです。
Q5. 再発防止の効果はどう確かめますか?
同じ作業を別の担当者に、直した手順書のとおりに行ってもらい、読み方が分かれないかを見ます(手順4)。手順5の見直しの日に、その行に沿って作業したときに迷った人がいないかを聞いても確かめられます。
Q6. 直し方が社内で決まらないときは?
決めるのは現場の責任者です。意見が割れた行は、いったん①の書き換えで仮に直し、手順5の見直しの日に、試した結果を見て決め直します。
Q7. ミスが続く作業の手順書を外に頼んで書き直せますか?
書き直しは、マニュアル作成支援としてお手伝いできます。ただ、どの行でミスが起きたかを話せるのは、その作業をしている御社の方です。手順2の突き合わせまでは社内で進めていただき、行の書き換えから一緒に進めます。
まとめ|ミスの再発防止は手順書の1行を直すことから
ミスの報告を受けた日は、朝礼で伝える前に、そのミスの事実を15分で書き、手順書を開いて該当行を確かめます。
予約の返信の例でいえば、読み返すのは「予約日を確認して返信する」の1行です。注意喚起と始末書で区切りをつける前にこの1行を直しておけば、次の担当者が受け取る手順書が変わります。
手順書が何冊にも分かれていると、どの1冊でミスの場面を探せばよいかが迷いどころです。その場合は、マニュアル整理の進め方|使われているかで仕分ける手順の方法で、作業ごとに開く1冊を決めてから突き合わせます。手続きの型を先に作りたい士業の事務所には、社労士事務所の業務マニュアルの作り方|手続きミスを防ぐ手順が向いています。

