求人を出し、面接をして、内定までは進みました。現場の先輩社員からは、4月に来る新卒が最初の1週間に何をするのかを確かめる声が出始めています。ところが、入社した日に誰が何を教えるのかは、まだ何も決まっていません。

初めて新卒を採る会社で起きやすい場面です。経営者が自分で教えようにも、現場につきっきりで教える時間はありません。面倒見のいい先輩1人に任せきりにすれば、その先輩が辞めたとたんに新人教育が止まります。

初めての新卒採用では、受け入れ後に誰が何を教えるかを入社前に決めておけるかどうかで差がつきます。事務手続きと並行して、新人に何を、どの順番で、誰が教えるかを決め、「教える型」として文書にします。その文書が受け入れマニュアルで、入社後1週間分から書き始めれば十分です。

この記事の結論

  • 初めての新卒採用でつまずきやすいのは、採用スケジュール、入社前の事務手続き、受け入れた後に教える中身と担当
  • 採用スケジュールと事務手続きは官公庁の案内で調べられ、教える中身と担当は自社で決める
  • 教える中身は、入社1週間目の新人が説明だけで迷わず動ける細かさまで書く
  • 準備の担当は時期で分ける。採用活動の前は経営者、内定から入社前は人事・総務の担当者、入社後の中身と書き足しは現場責任者
  • 受け入れマニュアルは入社後1週間分から使い始め、新人が迷った箇所を書き足していく

初めての新卒採用、不安の正体は

初めて新卒を採る会社の不安は、「前例がない」の一言でくくられがちです。中身を分けていくと、入社した新人を誰がどう育てるのかが見えていないことに行き着きます。

中途採用で入る人は、前の職場で覚えた仕事の進め方を持っているのが普通です。新卒には、その経験がありません。電話の取り方も、社内の書類の回し方も、入社した日から一つずつ覚えていきます。

入社した日の新卒は、電話が鳴っても、自分が取ってよいのかどうかから迷います。社内の誰に何を聞けばいいのかも、まだ分かりません。

先輩が隣で一度やって見せるだけの「背中で学べ」の教え方だと、新人は何を覚えればいいのかを自分で探すことになります。新卒を初めて受け入れる会社は、教わる側のこの状態を先に想像しておきたいところです。

初めての新卒採用でつまずく3つの場面

採用スケジュールと入社前の事務手続きは、官公庁の案内で調べられます。受け入れた後に教える中身と担当だけは、自社で決めるしかありません。

採用スケジュールを把握していない

「もう募集を始めていい時期なのか」「内定はいつ出していいのか」。前例がない会社では、ここで迷って動き出しが遅れがちです。

2027年3月卒業予定の学生(2026年度卒業・修了予定者)は、正式な内定日が2026年10月1日以降とされ、2026年10月からは内定から入社までの準備期間に入っています(出典:内閣官房「2026(令和8)年度卒業・修了予定者等の就職・採用活動に関する要請」)。これから募集を始める会社が対象にするのは2028年3月卒業予定の学生(2027年度卒業・修了予定者)で、広報活動は2027年3月1日以降、採用選考活動は2027年6月1日以降、正式な内定日は2027年10月1日以降とされています(出典:内閣官房「2027(令和9)年度卒業・修了予定者等の就職・採用活動に関する要請」)。どちらの日程も政府からの要請で、法律で決められた規則ではない点に注意してください。

4月入社なら、10月の内定から入社まではおよそ半年あります。この半年を、受け入れの準備に使えます。

入社前の事務手続きに漏れがある

雇用契約書のひな形が、社内のどこにもありません。社会保険の届出を何日以内に提出すべきか、誰も把握していません。入社前の事務手続きには、期限が決まっているものがあります。

健康保険・厚生年金保険の資格取得の届出は、提出期限が「事実発生から5日以内」です(出典:日本年金機構「就職したとき(健康保険・厚生年金保険の資格取得)の手続き」)。

労働条件も、書面などで明示する義務があります(出典:e-Gov法令検索「労働基準法」第15条)。明示のルールは2024年4月に改正されているため、雇用契約書を用意する前に、厚生労働省のページで今の内容を確かめてください(出典:厚生労働省「2024年4月から労働条件明示のルールが変わります」)。

注意

実際の手続きは雇用形態や時期によって変わるため、社会保険労務士に確認しながら進めてください。ここで挙げた期限と義務は、入社前の手続きの一部です。

入社前チェックリスト

受け入れた後、教える中身と担当が決まっていない

現場の先輩に「よろしく頼むね」とだけ伝えて任せます。先輩は自分の仕事を抱えたまま、空いた時間に教えます。その間、新人は何を聞けばよいかも分からず、席で待っている状態です。

先輩が2人いれば教える順番も2通りになり、新人はどちらのやり方に合わせればいいのか迷います。こうして、新人の最初の1週間は待つ時間と聞き直す時間で埋まっていきます。

受け入れマニュアルの材料になるのは、社内にある業務マニュアルや手順のメモです。そのメモが新人にも通じる書き方かどうかは、下の無料診断の再現性などの評価で見当がつきます。

そのマニュアル、現場で使われていますか

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新卒の受け入れは「教える型」から考える

教える型を作るときは、入社したばかりの新人が作業できるかを基準にします。ベテランの感覚で書いた説明は、新人から見ると、途中の手順が抜けた説明です。

「背中で学べ」の教え方と教える型のある教え方

「それ、新人にできますか?」を基準にする

私がマニュアルを作るときに置いている基準は、「それ、新人にできますか?」という問いです。入社1週間目の新人が、書いてある説明だけで迷わず作業できるなら、答えは「できる」。途中で誰かに聞かないと進めないなら、もう1段細かく書き直します。

「請求書を確認して回す」と書いてあれば、ベテランには十分です。新人には、何を確認して誰に回すのかが分かりません。「金額と宛名を見積書と照らし合わせ、合っていたら経理の担当者に渡す」まで書けば、新人も同じ動きができます。請求書の回し方が決まっていれば、新人は最初はそのとおりに回し、慣れてから確認の順番を自分で工夫できます。

「背中で学べ」の教え方では、電話応対から教える先輩と書類の整理から教える先輩で、新人が覚える順番が変わります。先輩が休めば、その日は新人の手も止まったままです。教える型を決めておけば、どの先輩についても1日目の仕事は同じです。中身が言葉になっているので、担当の先輩が替わっても教える中身は変わりません。

ベテランの頭の中にある技能を型にして残す進め方は、技能伝承をマニュアル化で進める4つの手順にまとめました。

新人に教える中身を3つの層で分ける

私達は、マニュアルに書く中身をマインドセット・ワークフロー・オペレーションの3つの層で考え、WOMと呼んでいます。「請求書を確認して回す」仕事に当てはめると、次のようになります。

  • マインドセット(なぜやるか):取引先に誤った請求書を送らないため、宛名と金額を照らし合わせる
  • ワークフロー(どの順番か):見積書と照らし合わせた後、経理の担当者に渡す
  • オペレーション(手と道具の動かし方):会計ソフトのどの画面の、どの欄に入力するか

ベテランは、宛名と金額を照らし合わせる理由をわざわざ口にしません。手順に書かれていない場面で新人が判断する手がかりは、書いておいた理由です。受け入れマニュアルに書いた手順は、新人が迷いそうな箇所から読み返します。そうした箇所は、なぜ・順番・手の動かし方のどれが抜けているかを見ると、補う中身が分かります。

新人に教える中身の3層(WOM)

初めての新卒採用、受け入れマニュアルの準備手順

準備は、採用活動の前、内定から入社前、入社後1週間の中身決め、入社後の書き足しの4段階です。担当を段階ごとに替えれば、準備が経営者1人に集中せずに済みます。

準備から受け入れまでの4段階と担当

採用活動の前に準備すること

担当:経営者(人事・総務の担当者と一緒に進める)

先に決めるのは、採用人数、求める人物像、採用スケジュールです。採用人数が1人か3人かで、教える先輩の人数も、受け入れマニュアルに書く範囲も変わります。求める人物像は「明るい人」のような言葉で終わらせず、入社1年目に任せたい仕事から逆算して書き出します。採用スケジュールは、内閣官房の要請にある日程を確かめてから組んでください。

内定から入社前に準備すること

担当:人事・総務の担当者

雇用契約書を用意し、就業規則の中身を確かめます。社会保険・雇用保険の手続きの流れは、入社日から逆算して整理しておきます。パソコンや机、社内システムのアカウントも、入社日までに揃えておきましょう。

入社後1週間で教える中身を決めておく

担当:現場責任者

入社前のうちに、入社後1週間で教える中身を洗い出します。社内に手順のメモや業務マニュアルがあれば、材料にして構いません。書く範囲は、最初の1週間で新人に任せる仕事だけに絞ります。1日ごとに「何を」「誰が教えるか」を決め、教える先輩を2人以上にしておけば、1人が休んだ日も新人教育は止まりません。

洗い出した中身は、請求書の例と同じように、新人の手の動きが見えるところまで書き込みます。1週間分であれば、入社前の数か月で十分に書き上げられる量です。

教える型は書き足しながら新人と育てる

担当:現場責任者と新人

最初から100点を目指すと、書き終わらないまま入社日を迎えてしまいます。私は、30〜40点で形にして使い始め、使いながら書き足していくことを勧めています。点数は完成度の目安で、何かを採点した数字ではありません。

新人は週に1回、迷った箇所や先輩に聞き直した箇所を現場責任者に伝えます。現場責任者は、その箇所を受け入れマニュアルに書き足します。1年続ければ、翌年の新卒が教わるのは、1年分書き足された受け入れマニュアルです。

マニュアルを新人教育に使った支援先では、次の数字が出ています。新卒採用だけを対象にした数字ではありません。

  • 事例1:ベテラン営業が多い会社
  • 成果物:157ページのマニュアル
  • 成果:新人研修期間が40%短縮
  • 事例2:別の支援先
  • 成果:新人教育期間が70%短縮

初めての新卒採用でよくある失敗

準備を進めていても、教える中身を新人の目線で決めきれていないと、入社後に次のような形で崩れます。

  • 先輩1人に任せきりにする:その先輩が休んだ日や辞めた後、新人の手が止まる
  • ベテラン基準で書いたまま使う:受け入れマニュアルはあるのに、途中の手順が抜けていて新人が使えない
  • 研修初日だけ丁寧にする:2週目以降は現場任せになり、教える中身が先輩ごとにばらつく。1週間分を書いた後も、2週目以降の中身を書き足していく

チェック

入社日の前に確かめること

  • ☐ 入社後1週間について、各日に教える中身と担当が決まっている
  • ☐ 教える先輩が2人以上いる
  • ☐ 受け入れマニュアルを、入社1週間目の新人の目で読み直した
  • ☐ 新人が迷った箇所を書き足す担当者が決まっている

教える型づくりが向いている会社・向いていない会社

入社1日目に新人の隣に座る先輩が決まっていなければ、型づくりは採用活動と並行して始めます。

教える型づくりが向いている会社

  • 初めて、または数年ぶりに新卒を採用する
  • 新人教育を特定の1人に頼る状態を避けたい
  • 採用活動と並行して、受け入れの準備も進めたい

教える型づくりが向いていない会社

  • 教育担当と研修の計画がすでに整っていて、教える中身も文書になっている

教える中身がすでに文書になっている会社は、研修の中身を見直すところから始めるのが早道です。

新卒の新人教育はOJT・研修会社・自社の型で比べる

どの会社でも共通するマナーは研修会社に任せ、自社の業務手順は自社で書けば、先輩の負担を抑えられます。3つの進め方を比べると、次の表のとおりです。

比較項目 先輩社員のOJTに任せきり 研修会社の既製プログラム 自社で教える型を作る
教える中身の再現性 △ 先輩によって中身と順番が変わる ◯ ビジネスマナーなど共通の中身はそろう。自社の業務手順は含まれない ◯ 自社の業務手順と判断の理由まで言葉にできる
教育担当者の負担 × 先輩が自分の仕事と教育を同時に抱える ◯ 研修の時間は外部に任せられる △ 最初に書く手間がかかる。書いた後は口頭で説明する時間が減る
担当者が替わっても続くか × 教えていた先輩が辞めると止まる △ プログラムは続くが、現場での教え方は別に決める必要がある ◯ 受け入れマニュアルが社内に残る

既製プログラムを使う会社も、判断の基準まで含めた自社の仕事の教え方は、社内で言葉にしておくことになります。

私達が受け入れマニュアルづくりを支援するときは、新人がつまずいた箇所を先輩と現場責任者から伺い、書き足す行を決めます。

初めての新卒採用でよくある質問

入社前に済ませるのは、採用日程の確認、届出の段取り、入社後1週間分の教える中身の用意です。

Q1. 新卒採用は何から準備すればいいですか?

採用人数と求める人物像を決め、採りたい学生の卒業年度の日程を内閣官房のページで確かめるところからです。人数が決まると、受け入れで教える先輩の人数も見えてきます。そのうえで、入社後1週間に教える中身の洗い出しを、採用活動と並行して始めてください。

Q2. 受け入れマニュアルは入社前に完成させておくべきですか?

いいえ。入社前に用意するのは、入社後1週間分の教える中身で足ります。新人が迷った箇所を書き足していけば、受け入れマニュアルは使いながら育っていきます。

Q3. 社会保険の手続きはいつまでにすればいいですか?

日本年金機構の案内では、健康保険・厚生年金保険の資格取得の届出は「事実発生から5日以内」です。手続きは雇用形態や時期で変わるので、いつから数えるかも含めて、届出の前に社会保険労務士に確かめてください。

Q4. 新卒の教育は誰が担当すべきですか?

教える型を決めるのは現場責任者、日々教えるのは先輩社員です。先輩は1人に任せきりにせず、2人以上で分担するのが基本です。教える中身が受け入れマニュアルに書いてあれば、担当の先輩が替わっても同じ中身を教えられます。

まとめ|初めての新卒採用を、教える型づくりから

入社までに手続きの日程と期限を確かめて入社後1週間分の教える中身を書き、入社後は新人が迷った箇所を書き足していきます。

まず、入社1日目に新人に任せたい仕事を3つ挙げ、それぞれに教える先輩を2人ずつ割り当ててください。挙げた仕事は、請求書の例と同じ細かさで手順を書いていきます。

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