令和7年10月末時点の外国人労働者は257万1,037人で、外国人を雇う事業所は37万1,215所でした。厚生労働省が2026年1月30日に公表した数字で、どちらも届出が義務化されてから最も多くなっています。

出典:厚生労働省「外国人雇用状況について(令和7年10月末時点)」

外国人スタッフに渡すマニュアルの中身は、1つ1つの仕事のやり方を書いた手順書です。初めて外国人スタッフを迎えた職場では、本人が「分かりました」と答えたあとで、動き方のずれが見つかります。手順書には「問題がなければ」「早めに」とあるだけで、何が問題なのか、いつまでなのかが書かれていません。

この記事の結論

  • 外国人スタッフに渡すマニュアルは、翻訳から始めず、元の日本語の手順書を書き直すところから作る
  • 伝わらない原因の多くは、「問題がなければ」のような、手順書に書かれていない前提にある。訳しても、書かれていない前提は訳文に出てこない
  • 作る順番は、日本語の手順を書き直す、やさしい日本語にする、図や写真を足す、母語の資料を必要な所だけ作る、本人に確かめる
  • 母語の資料を用意するのは、間違えると安全やお金に関わる手順と、説明が複雑な手順に絞る
  • 本人に確かめてずれが見つかったら、元の日本語の手順書から直す
  • 書き直す手順書は、最初に1人で任せる仕事の1つから始めればよい

外国人スタッフ向けのマニュアルで起きていること

日本語を母語とする人に通じる手順書でも、書かれていない前提があると、日本語を母語としない人はそこで手が止まります。

次の4つと、この先に出てくる倉庫・製造・店舗の場面は、想定して書いたものです。特定の会社の話ではありません。

  • 手順書を渡して「分かりましたか」と聞くと「はい」と返ってきたのに、動きは手順書と違っていた
  • 手順書の「問題がなければ棚に入れる」の「問題」が何を指すのか、どこにも書かれていなかった
  • 日本語のマニュアルを翻訳ソフトにかけて配ったが、現場で開かれている様子がない
  • 口で教えているベテランが休むと、その日の作業が止まる

日本語を母語とする人なら、「問題」が何かを前後の様子から察して動きます。日本人なら察する所を、外国人スタッフにはどう書けば伝わるのか。手順書を書く担当者が手を止めるのは、この点です。

口で教えている人に質問が集まり続けると、その人の本来の仕事は後回しになります。手順書がないかぎり、その人に頼る状態は終わりません。

外国人スタッフ向けマニュアルが伝わらない場面と原因

伝わらない原因の多くは、本人の日本語の力よりも、手順の書き方と、伝わったかの確かめ方にあります。

①手順に書かれていない前提が残っている

倉庫で、入荷した箱を棚に入れる手順書に「問題がなければ棚に入れる。なるべく早めに」と書いてあります。長く働いている人は、数が伝票と合っていれば問題なし、昼までに入れればよい、と察して動きます。日本語を母語としない新しいスタッフが書かれたとおりに読むと、何を見れば問題がないと言えるのかが分かりません。

書かれていない前提は、日本人の新人にも見えていません。外国人スタッフが入ると、それが表に出てきます。

察する力のある人がそろっていると、手順書の穴はその人たちの経験で埋まり、外からは見えません。担当が替わった日に仕事が止まるのは、手順書の書き方に元から穴があったからだと私は考えています。

②一文に動作や略語が詰め込まれている

製造の現場の点検表に、「確認して問題なければ記入し、あれば報告」と1文で書かれています。この1文に入っている動作は、確認する、記入する、報告するの3つです。社内だけで通じる略語や、「エビデンスを残す」「いったんペンディング」のようなカタカナ語も混ざります。

出入国在留管理庁と文化庁は2020年8月に、「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン」を出しました。国や地方公共団体が書き言葉で情報を出すときのガイドラインで、外国人が働く企業でも使われることを期待すると書かれています。

ガイドラインが勧めるのは、一文に言いたいことを1つにし、3つ以上のことを言うときは箇条書きにする書き方です。難しい言葉や略語、カタカナ語、「ごろ」「くらい」のような曖昧な言い方も避けるとしています。どれも、書き手の側で直せることです。

出典:出入国在留管理庁・文化庁「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン」(2020年8月・PDF)

③伝わったかを本人に確かめていない

店舗で、閉店後のレジ締めの手順書を渡した翌日に「分かりましたか」と聞くと、「はい」と返ってきます。翻訳した版は、本人に見せないまま休憩室に貼りました。数週間後、締めの順番が手順書と違っていたことが分かります。

入ったばかりの人は、国籍に関係なく聞き返しにくいものです。「はい」は、分かったという意味とは限りません。確かめるなら、本人にその手順を話してもらうのが早道です。日本語教師や外国人に、書き換えた文が伝わるかを確かめてもらうことも、ガイドラインが勧める方法です。

外国人スタッフに渡す前の日本語の手順書があれば、今の状態を確かめられます。

そのマニュアル、現場で使われていますか

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外国人スタッフ向けマニュアルは日本語の手順から整える

外国人スタッフ向けのマニュアルづくりは、翻訳や図より先に、元の日本語の手順に書かれていない前提を書き出すところから始めます。

誰が、何を、どの順で、何を基準にするかまで書き直した日本語の手順書を、先に1つ作ります。この手順書が原本で、やさしい日本語の版、写真を足した版、母語の資料は、どれも原本から作って本人に渡す版です。

同じ手順でも、書き方で動き方が変わる

人が訳しても機械で訳しても、元の日本語に書かれていないことは訳しようがない、と私は考えています。「問題がなければ」をそのまま訳せば、訳文にも同じ曖昧さが残るからです。そのため、先に原本を整え、渡す版はそのあとに作ります。

日本語で話す相手どうしでも、10言って3しかわからないものです。人は分かり合えないものだという前提で、伝わらない分を書いて補う仕組みを組み立てるのが私のやり方です。

整えた原本は、日本人の新人に渡しても、そのまま使える手順書です。

外国人スタッフ向けマニュアルの形を比べる|日本語か母語か

渡す形は1つに決めず、手順の性質に合わせて組み合わせます。ガイドラインも、やさしい日本語を入り口にしつつ、複雑なことを伝えるときは多言語の資料を用意するなどの使い分けが必要だとしています。

比較項目 ①今の日本語のまま渡す ②やさしい日本語に書き換える ③母語に翻訳する ④写真・図・短い動画を添える
向く手順 日本語を母語とする人と同じ説明で動ける手順 毎日くり返す、やり方が決まっている作業 間違えると安全やお金に関わる手順、説明が複雑な手順 動きや置き場所を見せたい手順
作る手間 書き直しは要らない 原本をもとに、1文ずつ書き換えた版を作る 言語ごとに訳し、本人か第三者に見てもらう 撮影と、写真に合わせた短い説明文が要る
原本を直したときの手間 原本を直すだけで済む 書き換えた版も直す 言語の数だけ直す 写真を撮り直す場合がある
弱点 書かれていない前提がそのまま残る 人によって合う書き方が違う 言語ごとに版が増え、原本を直すたびに各版も直す必要がある 動きや置き場所は分かるが、判断の基準は写真に写らない
組み合わせ方 このまま渡さず、手順1で書き直して原本にする 基本の渡し方にして、④を添える ②と④で足りない手順に絞って作る ②か③に添える。文字の説明は残す

表を読むときは、その手順が間違えると安全やお金に関わるか、動きを見れば分かるかの2点で見てください。前者なら③を足し、後者なら④を足します。どちらでもない手順に要るのは、②だけです。

外国人スタッフ向けマニュアルの作り方を手順で解説

作る順は、日本語の原本、やさしい日本語の版、図や写真、母語の資料で、最後に本人に確かめます。

手順1|日本語の手順を誰が何をするかで書き出す

担当:現場の責任者(書く)、その仕事をいま回している人(教える)

外国人スタッフに最初に1人で任せる仕事を、1つ選びます。その仕事を、誰が、何を、どの順で、何をもって終わりとするかに分けて書き出します。

手順の中に「問題がなければ」「なるべく早く」「きれいに」のような言葉があれば、数字か条件に書き直します。「なるべく早く」なら「正午までに」と書き、「問題がなければ」は「伝票と数が同じなら」に改めます。

教える人に聞かないと書けない所には、印を付けておきます。印の付いた所が、手順書に書かれていなかった前提です。

手順メモや古い資料があちこちに残っていて、どれが今のやり方か分からないなら、書き出す前に集めて仕分けます。仕分けの進め方は、マニュアル整理の進め方|使われているかで仕分ける手順で書いています。

手順2|やさしい日本語に書き換える

担当:手順書を書く人

手順1で書き直した原本をもとに、やさしい日本語の版を作ります。書き換えるときに見る所は、次のとおりです。

  1. 一文に言いたいことは1つにする
  2. 3つ以上のことを言うときは、箇条書きにする
  3. 略語、カタカナ語、「ごろ」「くらい」のような曖昧な言葉を使わない
  4. 二重否定と、「〜される」「〜させる」の形をできるだけ避ける
  5. 社内だけの呼び名は、用語集にまとめて意味を書く
  6. 漢字にはふりがなを付ける

文末は「〜してください」「〜です」にそろえ、時間には「午前」「午後」を付けます。ガイドラインは、相手の言語背景によって、漢字かな交じりの文とひらがなの文を用意すると効果的だとしています。

ガイドラインは、やさしい日本語を相手に合わせて柔軟に調節するものとして、あえて厳密な基準を示していません。どこまで易しくするかは、手順5で本人に聞きながら決めます。

書き換えシート見本(記入例・架空)

手順3|図や写真で見せる所を決める

担当:手順書を書く人と、現場の責任者

文字だけでは伝わりにくい所を選んで、写真・図・記号を足します。置き場所、ランプの色、部品の向きのように、見れば分かる所が候補です。ガイドラインも、イラストや写真、図や記号を使って分かりやすくするよう勧めています。

全部の行に写真を付けると手順書が厚くなり、目当ての行を探しにくくなります。写真を足すのは、文字だけでは迷う所だけです。手を動かす順番を見せたい所は、短い動画も選択肢です。

写真を添えても、文字の説明は消さずに残します。「数が合わないときにどうするか」のような判断は、写真に写らないからです。

手順4|母語の資料は必要な所だけ作る

担当:現場の責任者(決める)、総務・人事

原本の手順のうち、ミスがけがや金銭の損につながる手順と、文字で説明すると込み入る手順について、母語の資料も用意するかを決めます。どこからをそうした手順とみなすかの線引きは、ガイドラインの使い分けの考え方をもとにした、私の見方です。

母語の資料を用意するかの分かれ道

母語の資料は、やさしい日本語の版ができてから、その版を訳して作ります。ガイドラインは、インターネットで発信する文書について、ふりがなのない文書もできるだけ同時に用意するとしています。機械翻訳にかけられる可能性への配慮です。本人がスマートフォンの翻訳アプリで手順書を読む場面もあるので、社内でもふりがなのない版を1部用意しておきます。

どの言語の資料が要るかは、本人に聞いて決めます。

手順5|本人に確かめて原本から直す

担当:現場の責任者(聞く)、外国人スタッフ本人

渡したあとは「分かりましたか」と聞く代わりに、「この手順を、私に話してもらえますか」と頼みます。話してもらった中身が手順書とずれていたら、そこが伝わっていない所です。

ずれた所は必ず原本から直し、そのあとでやさしい日本語の版と母語の資料に反映します。版ごとに別々に直すと、版と版の中身が食い違うからです。

社内に日本語教師の経験がある人や、頼める外国人の同僚がいれば、本人とは別の人にも見てもらいます。

最初の版は30〜40点で渡して構いません。本人に話してもらうたびに、足りない所が見つかるからです。手順書の中身が伝わっているかは、同じ質問が繰り返し出ていないかで確かめます。手順書どおりに動けたかを本人に聞くのも、確かめ方の1つです。

直すのは原本から

外国人スタッフ向けマニュアルでも伝わらない場合

手順に書かれていないことが原因で伝わらない場合は、手順書の書き方で直せます。手順そのものが決まっていない場合や、合う書き方が人によって大きく違う場合は、別の手当てが要ります。

  • 手順が人によって違う:手順書を書く前に、どのやり方にそろえるかを現場で決める
  • 合う書き方や母語の資料の量が、人によって大きく違う:ふりがなの付け方や資料の量を、本人ごとに聞いて変える
  • 在留資格の手続き、雇用契約書や就業規則の翻訳:手順書づくりとは別の仕事で、社会保険労務士や行政書士、翻訳の専門会社が相談先になる

この進め方が合うのは、次のような会社です。

  • 外国人スタッフを初めて、または久しぶりに迎える
  • 口で教えている人に頼りきりになっている
  • 日本語のマニュアルはあるが、伝わっているかを確かめる方法がない

この進め方が合わないのは、翻訳だけを頼みたい会社と、作って渡せば現場が動くと考えている会社です。翻訳だけなら、翻訳の専門会社が窓口になります。作って渡すだけでは手順5の確かめる工程が抜けやすく、手順書は最初の版のまま止まります。2.1が受け持つのは、日本語の手順を書き直す所までです。

外国人スタッフ向けマニュアルのよくある質問

翻訳の範囲もふりがなの付け方も、決め手は本人に聞いた結果と、その手順が安全やお金に関わるかどうかです。

Q1. マニュアルは全部母語に翻訳する必要がありますか?

いいえ。原本を整えたうえで、事故やお金の取り違えにつながる手順など、必要な所に絞って作ります(手順4)。やさしい日本語と多言語の資料の使い分けは、ガイドラインでも必要とされている考え方です。

Q2. ふりがなは全部の漢字に付けますか?

ガイドラインは、すべての漢字にふりがなを付けるとしています。あわせて、相手の言語背景によっては、ひらがなの文も用意すると効果的だと書いています。どちらの版にするかは、本人に両方を見せて決めるのが確実です。

Q3. 翻訳ソフトの訳文をそのまま配ってよいですか?

いいえ。配る前に、本人か、日本語と母語の両方が分かる人に見てもらいます(手順5)。本人が翻訳アプリで手順書を読む場合に備えて、ふりがなを付けない版も用意しておきます(手順4)。訳す前に曖昧な言葉を直しておくのは、手順1と手順2の役目です。

Q4. 外国人スタッフにも安全衛生教育は要りますか?

はい。労働者を新たに雇い入れた事業者には、安全衛生教育を行う義務があります(労働安全衛生法第59条)。業種や国籍、企業規模、雇用形態などは問われません。手順書は、安全衛生教育を補う道具として使います。

出典:長野労働局・各労働基準監督署「労働者への安全衛生教育の実施が義務付けられています」(PDF)

Q5. 社内マニュアルの多言語化に助成金はありますか?

厚生労働省の人材確保等支援助成金には、外国人労働者就労環境整備助成コースがあります。そのメニューの1つが「社内マニュアル・標識類等の多言語化」です。

令和8年4月1日現在のQ&Aでは、対象の社内マニュアルを、外国人労働者に適用されるマニュアルや標識類としています。安全衛生、セクシュアルハラスメント、パワーハラスメント、福利厚生などに関するもので、動画も含めた扱いです。よく使うマニュアルだけの翻訳でも対象になり得る、とQ&Aにあります。対象は助成金の計画期間に新たに多言語化するものに限る、という趣旨の記載もあります。

ただ、日々の作業手順書が対象になるかは、このQ&Aからは読み取れません。要件・金額・申請の時期は、都道府県労働局かハローワークで確かめてください。

出典:厚生労働省「人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)Q&A」(令和8年4月1日現在・PDF)

注意

安全衛生教育の内容と方法は、事業所を管轄する労働基準監督署に確認してください。助成金を使えるかを含め、自社の場合の個別の判断は、社会保険労務士等にご確認ください。

Q6. 手順書だけで教えられますか?

いいえ。最初の数回は、手順書を見ながら一緒に動きます。そのあとで、本人に手順を話してもらって確かめます(手順5)。

Q7. 2.1に頼めることは何ですか?

日本語の手順を、誰が何をするかが分かる形に書き直す作業を、御社の現場の方と一緒に進めます。翻訳・通訳、在留資格の手続き、就業規則の翻訳はお引き受けしていません。書き出しと確認には現場の方に加わっていただくので、作業をすべて外部に任せる形のご依頼もお受けしていません。

まとめ|外国人スタッフ向けマニュアルは原本づくりから

次に外国人スタッフへ渡す予定の手順書を1つ開き、「問題がなければ」「なるべく早く」のような言葉に線を引いてください。開くのは、最初に1人で任せる仕事の手順書です。線を引いた言葉は、数字か条件に書き直します。

書き直した原本ができたら、それをもとにやさしい日本語の版を作り、迷いそうな所に写真を足します。母語の資料が要るのは、間違えるとけがや損失が出る手順と、説明の込み入った手順の分だけです。渡したあとに本人に手順を話してもらい、ずれた所を原本から直していきます。

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