月曜の営業会議で、AさんとBさんが今月の受注を報告します。Aさんは初回の面談で概算の金額を伝え、Bさんは先方で発注を決める人(社長や部長)に会うまで金額を口にしません。2人とも受注は取れているのに、どこがどう違うのかを言葉にしようとすると、部長の手が止まります。
社長からは「来期までに営業の型を作ってくれ」と言われています。解説記事でよく見る5〜8段階の営業プロセスを写しても、2人の違いは「提案」「クロージング」の1マスに埋もれたままです。
この記事の結論
- 営業1人につき直近の受注3件を、最初の接点から受注まで日付つきの出来事で1行ずつ書く
- 全員の全件に出てくる出来事に印を付け、その前後で営業プロセスの段階を区切る
- 人によって前後が入れ替わる出来事に別の印を付け、そこを進め方の違う箇所として扱う
- 区切りごとに「次へ進む合図」を、誰が見ても分かる出来事の一文で決める
- 書く時間は1人30分まで、段階は3〜6つに絞る
中小企業の営業プロセスの違いは出来事の順番に出る
AさんとBさんの違いは、見積を出す前の出来事の順番に出ます。Aさんは金額を伝えてから決める人に会い、Bさんは決める人に会ってから金額を伝えています。
どちらも受注できているので、片方を正解と決めると、もう片方の受注の取り方は説明がつきません。段階の名前を先に決めて案件を当てはめるやり方では、この順番の違いは「提案」の中に収まって見えません。
2.1は創業12年、導入実績700社の現場で、属人化を設計で直すものとして扱ってきました。営業の進め方の違いも、誰が上手いかを比べる材料にせず、どの出来事の順番をそろえるかを決める材料として使います。
営業の受注が社長の同行に頼り切りで、社長がいないと話が進まない会社もあります。その場合は先に、社長が現場から抜けられない理由で書いた、社長に届く確認を減らす手順から手を付けてください。
見積の金額の決め方が人によって違うのは、段階とは別の課題です。金額の根拠を書き残す方法は、見積の属人化を解消する手順にまとめました。
見える化の材料は営業ごとの直近の受注3件
材料にするのは、営業1人につき直近の受注3件です。直近の3件が同じ規模の案件ばかりなら、1件だけ金額の違う受注に入れ替えます。
書く時間は1人30分までにし、思い出せない出来事は空欄のまま残します。30分で切り上げるのは、2.1が業務の棚卸しで勧めている進め方と同じです。
年表の1行に入るのは日付つきの出来事で、「ヒアリング」「提案」のような活動名だけの行は作りません。「4月3日 先方の総務課長と初めて会った」「4月17日 先方の社長が面談に同席した」のように、誰が何をしたかまで書きます。
日付の出どころは、メールの送信日時、カレンダーの予定、日報の記録です。
チェック
年表の1行で迷いやすいところ
- 先方から届いた連絡(電話・メール・発注書)も、こちらの動きと同じく1行にする
- 「資料を送った」で止めず、何の資料を誰に送ったかまで書く
- 日付を思い出せない行は「日付不明」として残し、近い日付で埋めない
社内の仕事を書き出す作業そのものに慣れていない会社もあります。30分で切り上げて次の作業を1つ決める進め方は、業務の洗い出し方法の手順で試せます。
受注3件の年表で営業プロセスの区切りを探す
区切りの候補は、全員の全件に出てくる出来事です。全件にあっても人によって前後が入れ替わる出来事は区切りにせず、進め方の違う箇所として別の印を付けます。
営業2人の受注3件の年表(例)
次の表は、営業2人が直近の受注3件ずつを書き、印を付けた例です。書いた年表を、ここでは1案件1行にまとめて並べています。日付と出来事は架空のもので、実在の会社の記録ではありません。
| 案件 | 最初の接点から受注までの出来事(日付の順) |
|---|---|
| Aさん 1件目 | 4/3 ◎初回の面談 → 4/3 △概算の金額を伝えた → 4/17 ◎決める人と面談 → 4/24 ◎決める日入りの返信 → 5/8 ◎発注書が届いた |
| Aさん 2件目 | 5/12 ◎初回の面談 → 5/12 △概算の金額を伝えた → 5/20 現場を見せてもらった → 5/28 ◎決める人と面談 → 6/2 ◎決める日入りの返信 → 6/16 ◎発注書が届いた |
| Aさん 3件目 | 6/2 ◎初回の面談 → 6/2 △概算の金額を伝えた → 6/16 ◎決める人と面談 → 6/23 ◎決める日入りの返信 → 7/7 ◎発注書が届いた |
| Bさん 1件目 | 4/8 ◎初回の面談 → 4/15 現場を見せてもらった → 4/22 ◎決める人と面談 → 4/23 △概算の金額を伝えた → 5/1 ◎決める日入りの返信 → 5/20 ◎発注書が届いた |
| Bさん 2件目 | 5/7 ◎初回の面談 → 5/14 現場を見せてもらった → 5/21 ◎決める人と面談 → 5/22 △概算の金額を伝えた → 5/29 ◎決める日入りの返信 → 6/12 ◎発注書が届いた |
| Bさん 3件目 | 6/9 ◎初回の面談 → 6/23 ◎決める人と面談 → 6/24 △概算の金額を伝えた → 6/30 ◎決める日入りの返信 → 7/14 ◎発注書が届いた |
「決める日入りの返信」は、見積書を送ったあとに先方から届いた返信を指します。その返信には、先方の社内で発注を決める日が書かれています。
全件に出てくる出来事に◎を付ける
例の年表で、6件すべてに同じ順番で出てくるのは、初回の面談、決める人との面談、決める日入りの返信、発注書の4種類でした。これに◎を付け、◎から次の◎までを1つの段階とみなします。
例では、初回の面談から決める人との面談まで、決める人との面談から返信まで、返信から発注書までの3段階に区切れました。
段階の数は3〜6つに収めます。◎が多すぎて段階が7つ以上になるときは、間が数日しか空かない◎どうしを1つの段階にまとめます。
「現場を見せてもらった」のように一部の案件にだけある出来事には、印を付けません。あとで手順を書くときに、段階の中の作業として書き込みます。
前後が入れ替わる出来事に△を付ける
「概算の金額を伝えた」は6件すべてに出てきますが、Aさんは決める人と会う前、Bさんは会った後に伝えています。このように、人によって前後が入れ替わる出来事が△の対象です。
△の付いた出来事が、AさんとBさんの進め方が違う箇所です。扱い方は、順番をそろえて段階の決まりに入れるか、段階の中で順番を問わない作業として残すかの2通りになります。
どちらにするかは、営業全員で年表を見ながら部長が決めます。何人が同じやり方をしていたかを数えて決める考え方は、新人の教え方が人によって違うときの手順書と同じ形です。

営業プロセスの区切りに「次へ進む合図」を決める
合図には、営業以外の人でも起きたかどうかを確かめられる出来事を使います。営業本人の受け止め方で決まる言葉を入れると、同じ案件でもAさんとBさんで段階の位置がずれてしまいます。
例の3段階なら、1段階目の合図は「決める人が同席した面談を終えた」です。2段階目は「決める日入りの返信が届いた」、3段階目は「発注書が届いた」が合図です。どの合図も、年表で◎を付けた出来事そのものです。
ポイント
営業の言葉を、見て分かる合図に書き直した例
- 「感触が良い」→ 2回目の面談の日を、先方から提案された
- 「予算はありそう」→ 先方の担当者から、今期の予算の上限額を聞いた
- 「もうすぐ決まる」→ 先方から、発注書の宛先を確認する連絡が来た
口頭の一言を、相手が動ける出来事の形に直す書き方は、仕事の指示が伝わらない原因でも説明しました。合図も同じで、読んだ営業が「この案件は次へ進めてよい」と自分で判断できる一文にします。
値引きに上司の承認が要る会社では、承認が下りた日も合図の一部になります。社内の承認で案件が止まっている場所を探す手順は、承認フローの見直しにまとめました。

見える化した営業プロセスを来期の会議で使う
決めた段階に進行中の案件を当てはめ、次へ進む合図が出たかを毎週確かめます。
進行中の案件を段階に置く
案件を行に、段階を列にしたExcelの表を1枚作り、合図が出た日付をセルに書き込みます。SFAやCRMを選ぶのは、この表1枚で案件を管理できるようになってからでも遅くありません。
合図が出ていない案件を週1回見る
営業会議では週1回、前の週から段階が動いていない案件だけを確かめます。担当者に案件が止まっている理由を聞くと、合図の書き方があいまいな箇所が見つかることがあります。見つかったら、その場で一文を書き直してください。
合図が決まった段階から手順書にする
段階と合図がそろったら、段階ごとに営業の手順を書き起こします。書き始めるのは、合図がはっきり決まった段階からです。
どこから手順書を書くかは、業務フローの手順書の作り方の手順で、工程に印を付けて決められます。
営業の手順書を社内だけで書き切れないときは、外部の手を借りる方法もあります。2.1のマニュアル作成支援では、営業の業務も対象にしています。
営業プロセスの見える化でよくある質問
年表は受注した案件から作るので、手が止まりやすいのは、件数が足りない営業と失注した案件の扱いです。
Q1. 受注が3件に届かない営業はどうしますか?
入社して日が浅い営業は、先輩に同行したときのメモから、その受注案件の年表を書きます。それでも足りなければ、本人の受注が3件たまるまで待ち、ほかの営業の年表だけで段階を決めておきます。
Q2. 失注した案件は年表に入れないのですか?
段階を決めるときに使うのは、受注した案件だけです。段階と合図が決まったあとで、失注1件を年表にします。どの合図が出ないまま終わったかを見ると、合図が実際の案件に合っているかを確かめられます。
Q3. SFAやCRMをすでに入れている場合は?
入力項目を設定し直すより、段階の名前と合図を年表から決めるのが先です。決めた段階の名前をSFAやCRMの商談の段階に写し、合図は段階を進めるときの条件として書き込みます。
Q4. 営業が辞めるときの引き継ぎにも使えますか?
使えます。進行中の案件は、段階の表に合図が出た日付が残っているので、後任はどの段階で止まっているかを表で確かめられます。辞める営業が書いた受注3件の年表は、その人の進め方を後任が知る材料です。案件ごとに何を書いて渡すかは、引き継ぎ書の書き方で説明しています。
まとめ|次の営業会議までに受注3件を書く
次の営業会議の前に、営業全員に直近の受注3件を日付つきの出来事で書いてもらってください。会議では全員の年表を机に出し、◎と△をその場で付けます。
◎で区切った段階ごとに、次へ進む合図を一文で決めてください。そのうえで来期の案件を表の段階の列に書き込み、合図が出るたびに日付を足していきます。
売れている営業がなぜ売れるのかを型にする考え方は、noteの「トップ営業の『売れる理由』を型にする。営業マニュアルの作り方」で読めます。
段階ごとの手順メモがたまってきたら、手順書として使える書き方になっているかを、マニュアル品質診断ツールで確かめられます。
段階ごとの手順メモができたら
手順を書いたPDF・Word・テキストのファイルを入れると、マニュアルとしての書き方の評価が無料で出ます。
相談だけでも歓迎です。

