総務の課長が、経費精算の作業メモをChatGPTに貼り付けて、手順書の下書きを頼んだとします。返ってきたのは、番号の振られた5行の手順でした。

2行目の「金額を確認する」で、課長の手が止まります。課長自身は領収書と入力した金額を見比べていますが、何と何を見比べるのかが、下書きのどこにも書かれていません。新人に渡してよいかを決められず、下書きは共有フォルダに置かれたままです。

この記事の結論

  • ChatGPTに書いてもらうのは、作業メモを番号つきの手順に並べ直す下書きまで
  • 下書きができたら、新人役のAIに手順書を1行ずつたどってもらい、止まる行を先に挙げてもらう
  • 挙がった指摘を直すか、現場に聞くか、採らないかは人が決め、配る前に人が1回通す

ChatGPTに任せる作業と、人が決める作業

手順書づくりでChatGPTに書いてもらってよいのは、手元にある材料を、番号つきの手順に組み直す下書きです。下書きのあとは、同じAIに新人役を頼み、止まる行を挙げてもらいます。自社で実際にどう動いているかを決める作業と、指摘を直す判断は、人の側に残します。

下書きでAIに任せてよい作業には、次のようなものがあります。

  • 作業メモを、番号つきの手順に並べ替える
  • 長い文を、1行に1つの動作だけを書く形に直す
  • 手順書に出てくる用語を一覧にする

人が決める作業は、自社の事実と判断にかかわるものです。

  • いつもの順番と、誰が承認するか
  • いつもと違うときに、どう判断するか
  • 手順書にどこまで書いてよいか

2.1の考え方は「AI導入前に、マニュアル導入。」です。AIが手伝えるのは、仕事の中身が言葉になっている範囲だけだからです。会社全体のAIの使い方がまだ決まっていない場合は、先に社内の生成AIガイドラインの作り方を見てください。AIを入れたのに使われずに終わる流れは、生成AI導入で失敗する中小企業の原因にまとめています。

生成AIの答えは、正しいとは限りません。個人情報保護委員会の注意喚起にも、生成AIの応答結果には不正確な内容が含まれることがある、と書かれています。手順書の下書きでも、メモにない確認や承認の行が足されていないかを確かめるのは、人の役目です。

貼り付ける素材の範囲についても、同じ注意喚起が、個人情報取扱事業者(個人情報のデータベースを事業に使う会社など)に向けて次の2点を挙げています。

  • AIに入力する文(プロンプト)に個人情報を含めるときは、利用目的の達成に必要な範囲かを確かめる
  • 本人の同意なく個人データを入力し、それが応答結果の出力以外の目的で扱われると、個人情報保護法に違反するおそれがある。そのため、入力したデータが機械学習に使われないことなどを確かめる

出典:個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」(本文PDF:生成AIサービスの利用に関する注意喚起等、令和5年6月2日)

自社の場合に入力してよいかどうかの判断は、社内の規程の担当者や弁護士に確認してください。

注意

作業メモを貼る前に、次の書き換えをします(2.1の目安)。

  • 顧客名・取引先名は「取引先A」のような仮の名前にする
  • 社員の名前は「経理担当」「部長」のような役割名にする
  • 給与・口座番号・住所は、手順に要らなければ消す

手順書づくりでAIと人が受け持つ作業の流れ

ChatGPTで手順書の下書きを作る|素材と指示

ChatGPTに渡すのは、実際に作業しながら取ったメモと、3点を書いた指示です。どちらも人が用意します。

素材は1行1動作の作業メモ

作業メモは、その仕事を実際にやりながら書きます。思い出しながら書いたメモでは、毎回やっている見比べや声かけが抜けやすいからです。1行に1つの動作だけを書き、「精算システムを開く」「領収書の日付を入力欄に入れる」のように、各行を動詞で終えます。

手順書にする仕事がまだ決まっていなければ、業務の洗い出し方法で一覧を作り、1つ選んでください。選んだ仕事のどの工程から書くかは、業務フローの手順書の作り方の手順で決められます。

指示は3点に絞る

ChatGPTへの指示に書くのは、次の3点です。

  1. 誰が読むか:この仕事を初めて担当する新人
  2. どこまで書くか:作業メモに書かれている範囲だけ
  3. 書かれていないこと:想像で補わず、その行に「要確認」と書く

3点目を入れておくと、メモにない行が足されたときに、人が見分ける手がかりになります。「要確認」と書かれた行は、そのまま現場に聞く候補になります。指示の文の例は、次のとおりです。

次の作業メモから、経費精算の手順書の下書きを作ってください。読む人は、この業務を初めて担当する新人です。作業メモに書かれている範囲だけを、1行1動作の番号つきの手順にしてください。メモに書かれていないことは想像で補わず、その行に「要確認」と書いてください。

口で伝えている1文を、相手が動ける形の指示に直す考え方は、仕事の指示が伝わらない原因に書きました。相手がAIでも、出来上がりの形を言葉にしていない指示では、思った形の答えが返ってきにくくなります。

AIに何度も作り直してもらわず、1回出た下書きで次に進みます。最初の手順書は30〜40点の出来で構いません。足りない行は、次の新人役の確認で探します。

新人役のAIに手順書を1行ずつたどらせる

下書きができたら、AIに入社初日の新人役を頼み、手順書を1行ずつたどってもらいます。AIには止まる行を挙げてもらうだけで、直すのは人です。

手順書を書いた本人やベテランは、書いていない手順を頭の中で補いながら読みます。そのため、自分では抜けに気づきにくくなります。2.1が手順書を見るときの基準は、「それ、新人にできますか?」です。

AIは、その会社の画面の名前も、承認する人も知りません。この確認では、AIが社内の事実を何も知らないことを使います。

ここから使う経費精算の手順書とAIの返答の例は、すべて説明のために作った架空のものです。実際の返答は、使うAIや手順書の書き方で変わります。

  1. 領収書を受け取ったら、経費精算システムに入力する
  2. 金額を確認する
  3. 上長の承認を得る
  4. 承認後、領収書の原本を提出する
  5. 月末までに処理を完了する

指示文1|止まる行を行番号で挙げてもらう

1本目は、手順書を上から順にたどり、手が止まる行を挙げてもらう指示です。

あなたは入社初日の新人です。この職場の仕事も社内用語も知りません。次の手順書を1行ずつ、書いてあるとおりに実行するつもりで読んでください。(1)次に何をするか書かれていない行、(2)意味が分からない言葉がある行、(3)どちらを選ぶか書かれていない行を、行番号つきで挙げてください。書かれていないことを想像で補って進めないでください。直し案は出さないでください。

最後の1文でAIに直し案を出さないよう頼むのは、直す判断を人に残すためです。直し案まで頼むと、承認する人や提出先を想像で埋めた文も混ざることがあり、どこが社内の事実かを人が見分けにくくなります。

この手順書なら、次のような指摘が返ってくることがあります。

  • 2行目:何と何を見比べて確認するのかが書かれていない
  • 3行目:「上長」が誰を指すのか、どうやって承認を頼むのかが分からない
  • 4行目:原本をどこへ、誰に出すのかが書かれていない

指示文2|知らないと動けないものを一覧にする

2本目は、手順書に出てくる言葉を対象に、前もって知っていないと動けないものを集めてもらう指示です。

次の手順書のどこにも説明がなく、事前に知っていないと動けないものを一覧にしてください。画面名、書類名、人の役割、社内用語に分けて挙げてください。

5行の例なら、画面名の「経費精算システム」、書類名の「領収書の原本」、役割の「上長」などが並ぶ返答が考えられます。この一覧は、手順書の最初に置く用語の説明の材料になります。

指示文3|うまくいかない場面を「要確認」つきで挙げる

3本目は、書いてあるとおりにやっても途中で止まりそうな場面を、AIに想定してもらう指示です。

次の手順書のとおりにやって、途中で止まりそうな場面を3つ挙げてください。それぞれ、手順書のどの行に何が書かれていれば止まらないかを、行番号で示してください。実際に社内で起きるかどうかは分からないので、各場面に「要確認」と付けてください。

5行の例なら、「領収書をなくしたとき」「月末が休日のとき」「外貨で支払ったとき」のような場面が候補になります。どれも、その会社で本当に起きるかは「要確認」のままです。

3本の指示文は、2.1が手順書の確認のために組んだものです。返ってくるのは止まる行の候補で、自社の仕事に当てはまらない指摘も混ざります。

ポイント

指示文を使うときは、次の順にしてください(2.1の目安)。

  • 1回のやり取りに貼る手順書は1本だけにする
  • 指示文は1→2→3の順に、1本ずつ送る
  • 返ってきた指摘は、行番号と一緒に手元のメモに写してから仕分ける

ChatGPTの指摘を3つに仕分ける判断表

AIの指摘は、その答えを誰が知っているかで、書いた人が直すか、現場に聞くか、採らないかが決まります。

次の表は、AIの指摘を手順書の直しに生かすために、2.1が整理した分け方です。

区分 見分け方 誰がどうする
手順書の中で直せる 手順書を書いた人なら答えが分かる(用語の説明がない、順番が前後している、主語がない) 書いた人が直す
社内の事実が要る その仕事を実際にやっている人でないと答えられない(画面名、承認する人、いつもと違うときの判断) 実際にやっている1人に聞いて、手順に1行足す
社内で起きない前提 自社の仕事にない場面を、AIが想定している 採らない。次から同じ指摘が出ないよう、指示文に「この場面はない」と書き足す

AIの指摘を3つの区分から直す・聞く・採らないに分ける流れ

見分けに迷ったときの手がかりは、その答えを知っているのが誰かです。手順書を書いた本人が答えを知っていれば、その人が直します。その仕事を毎日やっている人しか知らなければ、現場に聞きます。

架空の5行に当てはめると、次のとおりです。

  • 2行目の「何と見比べるか」は、メモを書いた冒頭の課長が「領収書の金額と、入力した金額」と知っているので、手順書の中で直す
  • 3行目の「上長が誰か」は、部署によって違うかもしれないので、経理の担当者に聞く
  • 指示文3の「外貨で支払ったとき」は、外貨で払うことがない会社なら採らない

聞く相手は、その仕事を今やっている1人に絞ります。部署の全員に聞くと答えが割れて、どの答えを書くかを決める手間がもう1つ増えます。

採らなかった指摘は、消すだけで終わらせません。指示文の最後に、「この会社では外貨での支払いはありません」のように1行書き足しておきます。次に別の手順書を確かめるときも、その1行を付けて指示文を送ります。

指摘を毎回仕分ける作業は、担当が決まっていないと続きません。AIの使い方が社内で根づかないときの考え方は、生成AIが定着しない理由で整理しました。

直した手順書は、人が1回通してから配る

新人役のAIが挙げた行を人が直したあとも、配る前に、人が手順書どおりに1回やってみます。AIの確認は、人が試す前に、文面で分かる抜けを先に直しておくためのものです。

文章だけを見るAIは、実際の画面を操作しません。ボタンの名前が手順書と違う、画面の並びが変わっている、といった食い違いは、人がやってみて初めて見つかるものです。

これから担当になる人に手順書だけで1件進めてもらい、止まった行を書き足す方法もあります。前任と後任が同じ職場にいる間に試せる進め方で、手順は引き継ぎ書の書き方にまとめました。

配ったあとに開かれない手順書は、中身より前に、置き場所や題名に原因がある場合があります。原因の絞り方は、マニュアルが読まれない原因で書きました。

書き方の抜けを別の目で見ておきたいときは、マニュアル品質診断ツールに手順書のファイルを入れてみてください。扱えるファイルはPDF・Word・テキストで、費用はかかりません。再現性や検索性といった観点ごとに結果が出て、入れたファイルは診断のあとに破棄されます。

チェック

配る前に確かめること

  • 手順書だけを見て、最初の行から最後の行まで1件通した
  • 「要確認」と書かれた行が残っていない
  • 採らなかった指摘を、指示文に書き足した

ChatGPTで手順書を作るときのよくある質問

指示文は文章だけでやり取りするので、使うAIや手順書の種類が変わっても、変える所は限られます。

Q1. ChatGPT以外のAIでも同じ手順でできますか?

はい、同じ指示文で試せます。3本の指示文は、特定の製品だけにある機能を使っていません。文章でやり取りできる生成AIであれば、そのまま貼り付けられます。返ってくる指摘の数や言い回しは製品ごとに違っても、判断表の分け方はそのまま当てはまります。

Q2. 画面の操作が多い手順書でも使えますか?

はい、文章で書いた手順の範囲なら使えます。ただし、画面名やボタンの名前が実際と合っているかは、AIには確かめられません。画面の操作が多い手順書では、指示文2で画面名の一覧を出してもらい、その一覧を人が実際の画面と見比べます。

Q3. AIが挙げた指摘が多すぎるときは?

1回に渡す手順書を、仕事の区切り1つ分まで短くします。経費精算なら、「入力」から「承認」までが1つの区切りです。まず、書いた人が「手順書の中で直せる」指摘を直します。そのあと、残った「社内の事実が要る」指摘をまとめて現場に聞けば、聞きに行くのは1回で済みます。

新人に渡す前の手順書に

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