部下や新人に口頭で頼んだ仕事が、思っていた形と違って上がってくると、直す手間は頼んだ側にもかかります。

仕事の指示が伝わらない原因としてよくあるのは、口頭の1文に、出来上がりの形と判断してよい範囲が入っていないことです。指示メモは、口頭で出す指示を、渡す前に5つの欄へ書き出したものです。口頭の指示をこの5欄に直してから渡すと、違う形で上がってくる回数を減らせます。

この記事の結論

  • 口頭の1文には動作がいくつも入り、出来上がりの形と判断してよい範囲は、言った人の頭の中に残りやすい
  • 1文を動作1行ずつに分けると、「きれいに」「まとめて」が何を指していたかが、行ごとに文字になる
  • 指示メモは、何を・いつまでに・出来上がりの形・判断してよい範囲・確認のタイミングの5欄で書く
  • 渡した後は、確認のタイミングに書いた日時に途中の出来を見て、違いが出た欄に1行足す

部下の性格ややる気、叱り方や評価の話には立ち入りません。扱うのは、1回ごとの指示の書き方と渡し方だけです。

仕事の指示が伝わらない原因|出来上がりの形が頭の中にある

口頭で出す1文には、受け手がする動作がいくつも入っています。「この資料、明日までにきれいにまとめておいて」なら、資料を探す、数字を集める、形を整える、届けるの4つです。この記事の例文と記入例は、すべて架空のものです。

ところが、どの資料か、「きれいに」がどんな形か、明日の何時かは、言った人の頭の中にしかありません。

受け手は、言われなかった部分を自分の経験で埋めて仕上げます。経験が違えば埋め方も違うので、同じ1文から別の出来上がりが生まれます。

もう1つ抜けやすいのが、どこまで自分で決めてよいかという範囲です。範囲が分からない受け手は、全部を自分で決めて違う形に仕上げるか、細かいことまで聞きに来るかのどちらかになります。

中途で入ったばかりの人は、前の職場で覚えた形で仕上げてきます。前職とのやり方の違いを1枚に書いて渡す方法は、中途採用が即戦力にならない理由をまとめた記事で書きました。

聞きに来る回数が増えると、確認が指示を出した人1人に集まり、その人が席を外せなくなります。確認が上の人に集まる形は、社長が現場から抜けられない会社で起きていることと同じです。

口頭の指示を動作1行ずつに分ける|前後の比較

「この資料、明日までにきれいにまとめておいて」を、受け手がする動作ごとに1行ずつ書き直すと、次の4行になります。

  1. 共有フォルダの「売上」から、先月分の売上表を開く
  2. 商品別に、先月の売上の合計金額を出す
  3. 合計を、A4の縦1枚に収まる表にする
  4. 明日の15時までに印刷して、私の机の上の箱に置く

口頭の1文を動作1行ずつに分けた前後

分けてみると、口頭の1文で使った語が何を指していたかが、それぞれの行に書かれています。

口頭の1文にあった語 分けた後の行に出てきた中身
この資料 共有フォルダ「売上」にある先月分の売上表
まとめて 商品別の合計金額を出す
きれいに A4の縦1枚に収まる表にする
明日までに 明日の15時に、印刷して机の上の箱へ

「きれいに」が指していたのは、A4の縦1枚に収まる表でした。言った人の頭にあった出来上がりの形が、3行目でようやく文字になります。

私が手順を書くときは、「1行1指示」を決まりにしています。1行に動作を1つだけ書くと、抜けている行や2通りに読める行を、目で見て確かめられるからです。

分けた4行は、渡す前に1行ずつ「それ、新人にできますか?」と読み直してください。1行目の共有フォルダがどこにあるか分からない人に渡すなら、フォルダの場所を1行足しておきます。

ポイント

行を分けるときの目安は、次のとおりです。

  • 「その」「例の」は、ファイル名や置き場所に書き換える
  • 最後の行には、渡す場所と時刻を書く

1行に動作を1つだけ書く形は、日本語が母語でない相手に指示を出すときにも、そのまま使えると私は考えています。やさしい日本語に書き換える手順は、外国人スタッフのマニュアルの作り方で説明しました。

指示メモの5つの欄|判断してよい範囲まで書く

指示メモでは、口頭で抜けやすい出来上がりの形と判断してよい範囲に、それぞれ専用の欄を設けます。欄があれば、書く側が空いている欄に気づけます。

5つの欄と書くこと

欄 書くこと
①何を 出来上がりの名前と数。売上表1枚、見積書1通など
②いつまでに 日と時刻。「できるだけ早く」とは書かない
③出来上がりの形 見本の置き場所か、「この様式の、この欄まで」という指定
④判断してよい範囲 自分で決めてよいことと、決める前に聞くこと
⑤確認のタイミング 途中で見せる日時。完成後に見るだけなら、その日時

①と②は、5W1Hでいう「何を」と「いつ」のことです。口頭の指示から抜けやすいのは、その下の③④⑤です。

欄の数は2.1で決めたもので、国や業界の様式に合わせたものではありません。

欄の書き方

  • ②いつまでに:日と時刻まで書きます。「明日まで」は朝一番とも夕方とも読めるので、「明日の15時」のように時刻を入れてください。
  • ③出来上がりの形:見本がある仕事は、その置き場所を書きます。見本が無い仕事なら、「この様式の、この欄まで」と書けば十分です。
  • ④判断してよい範囲:「決めてよい」と「聞く」を分け、1行ずつ書きます。聞くことが1つも無いメモは、受け手から見ると全部を任されたのと同じです。
  • ⑤確認のタイミング:完成の前に1回、途中で見せてもらう日時を書きます。完成後に見るだけでよい仕事なら、書くのはその日時です。

5欄が全部埋まらないまま渡してもかまいません。最初は30〜40点のメモを渡し、⑤の日に見て、足りなかった欄に書き足せば間に合います。

注意

指示メモは机の上や共有の棚に置かれることがあるので、次のものは書き込まないでください。

  • 取引先の担当者の電話番号や住所。書くのは、それが載っている台帳の場所だけにする
  • システムのパスワード
  • 値引きの上限額のように、受け手以外に見られると困る数字

記入例(架空の3本)

受注の入力、見積書の作成、来月分のシフト表について、5欄を埋めた例です。

欄 受注の入力 見積書の作成 来月分のシフト表
①何を 今日届いた注文書8枚分の入力 新しい問い合わせ1件の見積書1通 来月分のシフト表1枚
②いつまでに 今日の17時 金曜の12時 今月25日の18時
③出来上がりの形 受注システムに入力し、注文書の右上に入力済みの印を押す 共有フォルダ「見積」の見本と同じ様式で、送付状まで付ける 先月のシフト表と同じ様式で、全員の希望休を入れる
④判断してよい範囲 決めてよい:入力する順番/聞く:品番が読めない注文書 決めてよい:送料の計算/聞く:値引きと納期 決めてよい:平日の入れ替え/聞く:土日の人数が足りないとき
⑤確認のタイミング 今日の14時に、入力済みの3枚分を見せる 木曜の15時に下書きを見せる 今月20日に下書きの案を見せる

受注の入力のように毎日出す指示でも、④の「聞く」を1行書いておけば、読めない品番を受け手が推測で入れる前に手が止まります。

指示を出す仕事が多すぎて、どれからメモにするか決まらないときは、先に自分が出している指示を書き出します。30分で区切る書き出し方は、業務の洗い出し方法にまとめました。

指示メモを渡した後|途中で見て、違った欄を直す

渡すときは、メモを見せながら読み上げ、④の「聞く」に書いた場面を受け手に1つ言ってもらってください。受け手が自分の言葉で言えれば、範囲の受け取り方が合っているかをその場で確かめられます。

次に途中の状態を見るのは、⑤に書いた日時です。完成してから違いに気づくと作り直しは最初からになりますが、途中で見れば、直すのはそこまでの分だけで済みます。

指示メモを渡してから途中で見て直す流れ

違いが出たら、受け手に理由を聞く前に、メモのどの欄が空いていたか、どの欄が2通りに読めたかを見てください。直す先はメモの欄です。次に同じ指示を出すときに使うのは、その欄に1行足したメモです。

たとえば見積書の送付状の宛名が部署名だけで上がってきたら、③に「宛名は担当者の氏名まで書く」と1行足します。次の見積書からは、同じ違いが出にくくなります。

起きた違いを、それが生まれた欄に戻して直す考え方は、ミスの再発防止の手順書で書いた、手順書の1行から直す見直し方と同じです。

毎週同じ内容のメモを書いている仕事は、メモを手順書に移す時期に来ています。工程に分けてから書く順番を決める方法は、業務フローの手順書の作り方で説明しました。

仕事の指示の出し方でよくある質問

指示メモは、相手の経験や書く側の忙しさに合わせて、欄の数と④で任せる範囲を変えて使えます。

Q1. 目的(なぜ)もメモに書いたほうがよいですか?

はい。出来上がりの形だけでは受け手が迷いそうなときは、目的も書きます。

目的のために欄は増やさず、③の下に「何に使うか」を1行足すだけです。売上表なら「月曜の会議で配る」と書いておくと、受け手は文字の大きさや並べ方まで考えて作れます。

Q2. 忙しくてメモを書く時間がないときは?

最初は、①②③の3欄に④の「聞く」を1行足した形で十分です。④の「決めてよい」と⑤は、1回目に上がってきたものを見てから書き足しても間に合います。

書いたメモは仕事ごとに1つのフォルダへ保存し、次に同じ指示を出すときに写して使ってください。フォルダが古いメモで埋まってきたら、マニュアル整理の仕分け方で、使っているメモと使っていないメモを分けられます。

Q3. 経験のある部下にもメモを使いますか?

使います。変えるのは書き方です。経験のある部下には④の「決めてよい」範囲を広めに書き、⑤の確認は完成後の1回を目安にします。

広く任せる場合も、④に「土日の人数が足りないときは聞く」のように聞くことを1行残しておけば、後になって「そこは聞いてほしかった」と言う場面が減ります。

まとめ|次に出す指示を1件、メモに書いてから渡す

次に口頭で頼む予定の仕事を1件選び、渡す前に5欄の指示メモに書いてみてください。書きにくい欄があれば、そこが今まで口頭で抜けていたところです。

出来上がりの形と判断してよい範囲が紙に書いてあれば、受け手が自分の経験で埋める部分は小さくなります。そのぶん、違う形で上がってくる回数も減っていきます。

同じ指示を何度も出している仕事なら、どの欄が抜けやすいかを現場への聞き取りから洗い出すところまでが、2.1でご一緒できる範囲です。

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