中小企業庁が示すBCPの様式には、重要業務とその責任者を書き込む表があります。ただ、担当者が1人休むだけで止まる仕事の多い会社ほど、どの仕事をその表に書けばよいかで迷いがちです。
重要業務は、止まって困る日数が短い順に並べ、1人しかできない行に代わりの人と手順を置くと決まります。担当者が出社できない日や事務所が使えない日に、誰が何を担当するかは、5つの列の一覧表1枚に収まります。
この記事の結論
- 重要業務とは、止まると会社の仕事が回らなくなる仕事のことで、中小企業庁の指針の基本コースで使われている
- 一覧表の列は、仕事名・止まって困る日数・いま1人しかできないか・代わりの人・代わりの手順がある場所の5つにする
- 日数の短い行を上に移し、1人しかできず、代わりの人の欄が空いている行から手順書に取りかかる
- 手順書ができたら、代わりの人に最初の1件を進めてもらい、手が止まった行を書き直す
災害の種類ごとの被害の想定や、認定の申請、補助金の話は、この記事では扱いません。
BCPの重要業務とは|中核事業を支える「止まって困る仕事」
重要業務は、止まると会社の仕事が回らなくなる仕事のことです。中小企業庁の「中小企業BCP策定運用指針」では、基本コースから使われている言葉です。
同じ指針でも、入門コースでは「重要商品」という言葉を使い、限られた人や資機材で優先して作る・売る商品やサービスを選びます。基本コース以降で最初に決めるのは、会社が生き残るために続ける「中核事業」です。その中核事業を支える営業や情報システムの運用などを、「重要業務」と呼んでいます。重要商品は売るものを選ぶ言葉で、重要業務は社内で回す仕事を選ぶ言葉なので、2つは同じものを指していません。
どの事業を中核にするかは、経営者が決めます。一覧表に書き出すのは、決まった中核事業を支える仕事です。

基本コースでは、中核事業ごとに目標復旧時間を決め、取引先と調整するか、会社が損害に耐えられる期間から考えるとしています。一覧表の「止まって困る日数」は、この考え方をもとにした仕事ごとの目安です。指針が中核事業ごとに決める時間とは、意味が違います。
基本コースの様式06は、重要業務ごとに必要な資源・責任者・責任者の連絡先・備考を書く表です。これに対し、この記事の一覧表は、止まって困る日数と、いま1人しかできないか、代わりの人、手順の場所を1行に並べます。代わりに入る要員は、指針では別の様式の「応援要員」の欄に分かれています。
指針の第2版は2012年(平成24年)4月の改訂なので、改訂から10年以上が過ぎた版です。様式が更新されていないかは、中小企業庁のサイトで確かめてください。
出典:中小企業庁「中小企業BCP策定運用指針 第2版」入門コース(https://www.chusho.meti.go.jp/bcp/download/level_d/bcpent_01.pdf)、全コース版(https://www.chusho.meti.go.jp/bcp/download/bcppdf/bcpguide.pdf)
担当者が出社できない日は、社内の連絡と記録も止まりやすくなります。けがの連絡を例に、誰がどの順で電話をかけ、何を書き残すかは、労災が起きたときの初動で手順にしたとおりです。
止まったら困る仕事の一覧表|重要業務を5つの列で
一覧表には重要業務1つにつき1行を使い、①仕事名から⑤代わりの手順がある場所までの5列を埋めます。最初は5行で止めてかまいません。
一覧表の5つの列
| 列 | 書くこと |
|---|---|
| ①仕事名 | 何をどうするかで書く(受注の確認、給与の振込) |
| ②止まって困る日数 | その仕事が止まっても、会社が持ちこたえられる日数の目安 |
| ③いま1人しかできないか | その人が1週間いないとき、ほかの人が最初の1件を進められなければ「はい」 |
| ④代わりの人 | 名前か役割で1人(部署の名前だけで書かない) |
| ⑤代わりの手順がある場所 | 手順書の置き場所(無ければ「無い」) |
5列・最初の5行・1週間という区切りは2.1の整理で、官公庁の基準や統計ではありません。
会社の仕事を一度すべて書き出してから選ぶ方法もあります。その場合は、業務の洗い出し方法で作った一覧から、止まると困る行を拾って一覧表に写します。
チェック
書き始める前に、次のものを手元にそろえてください。
- 締め日・給与の振込日・納品日が入った、会社の予定表を開いておく
- 主な取引先と約束している納期や回答の期限を、メモに書き出しておく
- 誰がどの仕事を受け持っているかが分かる担当表を、印刷しておく
記入例(架空の6行)
次の6行は架空の記入例です。想定は物を仕入れて売る従業員40名ほどの会社で、並べ替えの様子が分かるよう、5行より1行多くしています。
| ①仕事名 | ②止まって困る日数 | ③いま1人しかできないか | ④代わりの人 | ⑤代わりの手順がある場所 |
|---|---|---|---|---|
| 受注の確認 | 1日 | はい | 営業課長 | 無い |
| 取引先からの電話・メールの受付 | 1日 | いいえ | 営業事務の主任 | 共有フォルダ「電話受付」 |
| 出荷の指示 | 2日 | いいえ | 倉庫の主任 | 倉庫の棚のファイル |
| 給与の振込 | 3日 | はい | (空欄) | 無い |
| システムの管理者権限の操作 | 3日 | はい | (空欄) | 無い |
| 請求書の発行 | 5日 | はい | 経理の補助担当 | 経理担当者のパソコンの中 |
上の行ほど②の日数が短くなるように入れ替えてあります。給与の振込とシステムの管理者権限の操作の2行は、③が「はい」なのに、④が空いたままです。
重要業務の表の埋め方|日数・1人・代わり・手順の場所
①に仕事名を5行書いたら、②の日数、③の1人しかできないか、④の代わりの人、⑤の手順の場所の順に埋めます。日数が先に決まれば、どの行から代わりを考えるかが決まるからです。
②止まって困る日数
取引先と約束している期限から逆に数えるか、その仕事が止まって会社が持ちこたえられる日数で書きます。受注の確認なら、取引先が返事を待ってくれる日数です。
迷ったら、短いほうの日数を書いてください。書き終えたら、日数の短い行を表の上へ移します。
③いま1人しかできないか
その人が明日から1週間いないとして、ほかの人が最初の1件を進められるかを考えます。最初の1件を進められない仕事は「はい」です。
社長しか判断できない仕事が多い会社では、まず社長に届く確認の数を数えます。すると、どの仕事が社長1人に集中しているかが分かります。数え方は、社長が現場から抜けられない理由で説明したとおりです。
ベテランが長く1人で受け持ってきた仕事は、本人が在籍しているうちに判断の基準まで聞き取ります。聞き取りに使えるのは、技能伝承のマニュアル化で説明した手順です。
④代わりの人
部署の名前で「経理」と書くと、経理の誰もが自分の担当だと思わなくなります。書くのは名前か、「経理の補助担当」のような役割で、1人だけです。
決まらない行は、空欄のまま残します。空欄の行は、そのまま次に手を付ける行の目印として使えます。
⑤代わりの手順がある場所
共有フォルダの場所か、紙ならどの棚のどのファイルかを書きます。手順書が無いなら、⑤に書くのは「無い」の一言です。
担当者のパソコンの中にしかない手順書は、その人がいない日には開けません。⑤には場所を書いても、手を付ける順を決めるときは「無い」と同じ扱いにします。
手順が無い行は、仕事の流れを工程に分けてから書くと、どの工程で代わりの人が止まりそうかが先に見えます。工程ごとに手順書を当てる進め方は、業務フローの手順書の作り方で書いた手順と同じです。
重要業務の表ができたら|代わりがいない行から手順を書く
手順は、②の日数が短く、③が「はい」で、④が空いている行から先に書き始めます。記入例なら、給与の振込とシステムの管理者権限の操作の2行がこれにあたります。
この2行は、手順の前に代わりの人を1人決めます。代わりの人が決まったら、いまの担当者が手順を書き起こし、⑤に置き場所を書き入れる流れです。次は代わりの人はいても手順が無い受注の確認で、その次が、手順が担当者のパソコンにしかない請求書の発行になります。

書き起こした手順書は、代わりの人に渡す前に、行ごとに「それ、新人にできますか?」と問い直します。答えが「いいえ」の行に書き足すのは、どの画面のどの欄を見るかといった条件です。
そのうえで、代わりの人に最初の1件を実際に進めてもらいます。途中で担当者が口で補った言葉は、その行の下にそのまま書き加えてください。書き加えた行の見直しは、起きたミスを手順書の行に結びつけるミスの再発防止の手順書と同じ順で進められます。
注意
代わりの人が試すときは、本物の振込や発注を確定させないでください。
- 振込は確定の操作の手前で止めるか、担当者が画面を確かめてから確定する
- 管理者権限のパスワードは手順書に書き込まず、保管している場所だけを書く
- 取引先への連絡は、送る前に担当者が文面を見る
共有フォルダに古い手順書が何本も残っている会社は、⑤に書く前に、使われている版とそうでない版を分けておきます。分け方はマニュアル整理の手順のとおりです。
④に社長の名前しか書けない行が残ったら、その仕事は社長から渡す準備が要ります。社長の日々の仕事と判断を書き出して渡す手順を、事業承継前の業務の見える化にまとめました。
書き上げた手順書は、マニュアル品質診断ツールで書き方を確かめられます。再現性や検索性を含む6つの観点で評価が返り、費用はかからず、Word・PDF・テキストのファイルを入れられます。診断に入れるのは手順書のほうで、一覧表は手元で使う資料です。
BCPの重要業務の洗い出しでよくある質問
一覧表を書き始めると、行の数と、指針のどの言葉に合わせるかで手が止まりやすくなります。
Q1. 重要業務はいくつに絞ればよいですか?
最初は5つ前後です。6行目を足すのは、5行分の手順書ができたあとで十分です。
Q2. 重要商品と重要業務は、どちらを書けばよいですか?
会社の規模と、回している仕事の数で選びます。指針の入門コースは、優先する商品やサービスを選ぶ「重要商品」から入る作りです。
商品を1つか2つに絞れる会社に合うのは、入門コースです。部署が分かれていて仕事の数が多い会社は、基本コースの「重要業務」で仕事ごとに書いたほうが、代わりの人を決めやすくなります。
Q3. 社内に代わりの人がいないときは、どうしますか?
④には社外の人を書くこともでき、仕入れ先や協力会社、付き合いのある同業者が候補です。止まった日に代わりを頼めるかを、先に聞いておきます。
社外に頼む場合は、何をどこまで任せるかと費用を、相手と書面で取り決めてください。
Q4. 事業継続力強化計画を作るなら何を確かめますか?
事業継続力強化計画は、中小企業が防災・減災の事前の対策を書き、国の認定を受ける計画です。中小企業庁が公開する「事業継続力強化計画 策定の手引き」の最新版で、求められる項目を確かめます。手引きは改訂されるので、ダウンロードした日付も控えておきます。
出典:中小企業庁「事業継続力強化計画 策定の手引き(単独型)」(https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/antei/bousai/download/keizokuryoku/tebiki_tandoku.pdf)
まとめ|重要業務を日数の短い順に5行書く
今日、まず①の仕事名に5行を書き、②の日数を入れて、短い行を上に移してください。③が「はい」で④が空いた行が見つかったら、その行の代わりの人を1人決めるのが次の一手です。
日数の短い行から代わりの人と手順がそろえば、担当者が出社できない日にも、その仕事を誰が回すかで迷わずに済みます。
止まる仕事の聞き取りと、手順の書き起こしは、2.1のマニュアル作成支援で受け持てる範囲です。BCPの策定そのものは扱っていないので、業務の見える化の一部としてご相談ください。2.1の資料一覧は、資料ダウンロードのページから無料で開けます。
止まる仕事に手順書ができたら
書き上げた手順書のファイルを入れると、書き方の評価が返ってきます。
内容を確認後、担当者よりご連絡いたします。

