厚生労働省の介護分野の生産性向上ポータルサイトは、手順書を作る最初の段階に、職員それぞれの業務の書き出しを置いています。同じ業務でも人によって手順や方法が異なるので、まず今の手順を見える形にする、という順番です。
新人が「先輩によって言うことが違う」と戸惑っている事業所でも、手順書はこの順番で作れます。
この記事の結論
- 介護の手順書は、正解を書く前に、同じケアを職員3人に別々に書き出してもらうところから作る
- 書き出しを手順の段階ごとに並べた「やり方の違い比べ表」で、違う行についてだけ、書いた本人に理由を聞く
- 違いは理由で4つに分け、利用者の状態に合わせた違いは場合分けとして手順書に残す
- 安全に関わる違いは話し合いで1つに決めず、施設長が決める
- 書いた1枚は新人に試してもらい、次に直す日を最初に決めておく
介助の方法の良し悪しや、運営基準・運営指導での手順書の扱いは、この記事の範囲に入れていません。
出典:厚生労働省「介護分野における生産性向上ポータルサイト」手順書の作成/同「業務改善に向けた取組」
介護の手順書は、正解を書く前に今のやり方を並べる
ポータルは手順書を、理念やビジョンを共有し、職員が共通認識を持つための手段の一つと位置づけています。目的は職員の熟練度を上げるトレーニングで、画一的なサービスの提供のためではない、と説明しています。
ポータルが挙げる業務改善の取組は職場環境の整備から始まる7つで、手順書の作成はそのうちの3番目です。
新人が先輩ごとに違うことを言われるのは、手順の多くが口で伝わってきたからです。私は、口で教えた手順が相手に伝わるのは「10言って3」くらいだと考えています。先輩3人から別々に教われば、新人の手元には3通りのやり方が残ります。
ポータルの進め方は4段階です。業務を書き出し、ムリ・ムダ・ムラ(3M)を見つけ、やるべき手順を決めてから、フロー図などで見やすい手順書にします。
2.1が足したのは、2段階目で使う表と、3段階目で手順書に何を書くかを決める基準です。書き出しを表に並べて見比べ、違いを理由で仕分けて、書く内容を決めます。

手順書がすでに何冊もある事業所は、どの冊子を残すかを、現場で開かれているかどうかで先に決めます。決め方はマニュアル整理の進め方に書きました。
最初に手順書にするのは、新人が先輩ごとに迷う業務
最初の1つは、新人が「先輩によって言うことが違う」と口にした業務から選びます。ケアそのものでも、記録や申し送りのようなケアの前後の業務でもかまいません。
新人が先輩に何度も聞き返している業務も候補になります。書き出してもらう職員が同じフロアで働いていれば、並べたときに手順の段階がそろいやすくなります。
候補の業務は、手順を頭の中で1つずつ追い、段階ごとに「それ、新人にできますか?」と自分に問います。「できない」と答える段階が多い業務が、先に手順書にする業務です。
1度に始めるのは1業務だけです。入浴と食事と記録を同時に書き出すと、見比べる表が業務の数だけ増え、1回の話し合いでは終わりません。
中途入職者が受け持つ業務は、前の職場のやり方が書き出しに表れるので、違いを見つけやすい業務です。前職とのやり方の違いを新しい職員に伝える方法は、中途採用が即戦力にならない理由の記事に書いています。
書き出す|同じケアを職員3人に別々に書いてもらう
書き出しは、経験年数の違う職員3人に、相談せず、いつもやっている通りに書いてもらいます。正しいやり方を書く場ではないと、頼むときに伝えておきます。
3人は、たとえばベテラン、3年目の職員、半年前に入った中途入職者のような組み合わせです。人数に決まりはなく、職員が少ない事業所なら2人でも進められます。
書く区切りは、準備、作業、片付けと記録で、言葉は各自のものでかまいません。1枚に並べる項目は、手に入るひな形にあるもので十分です。
書く時間は1人30分で区切ります。書ききれなかった段階は空けたまま出してもらい、空いた行も見比べる材料にします。
書き出しが数行で止まった職員には、書く代わりに口で説明してもらい、聞き手が書き取ります。聞き手の質問の組み立ては、技能伝承をマニュアル化で進める手順に載せました。
チェック
用紙を配る前に、次を確かめてください。
- 用紙に、利用者の氏名や居室番号を書く欄がないか
- 3人が別々の時間か、別々の部屋で書けるか
- 表には書いた人の名前を出さず、A・B・Cで載せると伝えたか
見比べる|やり方の違い比べ表で違いの理由を聞く
3人の書き出しを段階ごとに1行へそろえると、違いのある行が見えます。違いのない行はそのまま手順書の骨組みにし、違いのある行だけ理由を聞きます。
やり方の違い比べ表の作り方
やり方の違い比べ表は、行に手順の段階を、列に職員A・B・Cのやり方と違いの有無、違いの理由を置いた表です。表の形と理由の4区分は、この記事のために2.1が整理したもので、公的な様式や業界の標準ではありません。
並べるときは、いちばん行数の多い書き出しを基準にして、ほかの2人の分を同じ段階の行に書き写していきます。書いていない段階は空欄のままにし、空欄も違いとして数えます。
違いの理由の区分は、次のとおりです。
- 利用者の状態に合わせた違い:利用者の体調や様子によって、やり方を変えている
- 安全に関わる違い:転倒や事故の防ぎ方にかかわっている
- 慣れ・好みの違い:どちらでも結果は変わらず、身についた順番で動いている
- 理由を言えない違い:「前からそうしている」「そう教わった」としか答えられない
記入例として、夜勤から日勤への申し送りを受け取る手順を並べます。職員Aは勤続10年、Bは3年目、Cは半年前に入った中途入職者という想定です。
| 手順の段階 | 職員A | 職員B | 職員C | 違い | 違いの理由 |
|---|---|---|---|---|---|
| ①受け取りを始める時刻 | 始業の10分前 | 始業の時刻 | 始業の10分前 | あり | 慣れ・好み |
| ②受け取る場所 | 詰所 | 詰所 | 詰所 | なし | ― |
| ③最初に見るもの | 夜勤の記録 | 夜勤者の話 | 夜勤の記録 | あり | 理由を言えない |
| ④聞く順番 | 居室の順 | 居室の順 | 夜間に受診した方を先に | あり | 利用者の状態 |
| ⑤申し送り中のナースコール | 夜勤者が出る | 日勤者が出る | 先に気づいた人が出る | あり | 安全に関わる |
| ⑥聞いた内容のメモ | 手帳 | 記録用紙の余白 | 付箋 | あり | 慣れ・好み |
記入例は架空のもので、どの手順が正しいかを示すものではありません。
違いの理由を聞くときの聞き方
聞き取りは、違いのあった行を1つずつ指して、「なぜそうしているか」を書いた本人に尋ねる形です。聞く人は、施設長か主任のどちらか1人に決めておきます。
3人を並べて順に問いただすと、誰が間違っているかを決める場に変わるので、1人ずつ別々に聞きます。
答えを聞いたら、表には区分だけを書き、誰がどう答えたかは書きません。記入例の③で、職員Bが「前からそう教わった」と答えたなら、その行は理由を言えない違いです。
決める|違いの理由で分けて手順書に書く内容を決める
手順書に書く内容は、違いの理由ごとに行き先を変えて決めます。決まった骨組みは全員が使い、利用者ごとに変える部分は場合分けとして書き残します。

利用者の状態に合わせた違いは、どれか1つに決めずに、場合分けのまま手順書に残します。記入例の④なら、誰のやり方を採るかは決めません。夜間に受診した方がいるときと、いないときの2行に分けて書きます。それぞれの順番は、職員と施設長で決めます。
安全に関わる違いは、話し合いで1つに決めず、施設長か、施設長が指名した看護職員などが決めます。安全に関わる手順の中身と、そのケアをしてよいかの判断も、その人の役目です。誰が決めるかは、表を見比べる前に決めておきます。
慣れ・好みの違いは、3人と施設長で話し合って1つにします。結果は変わらないので、新人が覚えやすいほうか、記録の順番に合うほうを選べば十分です。
理由を言えない違いは、見比べた日の話し合いで最初に取り上げます。そのやり方を教えた先輩に聞き直すと、理由が見つかる行も出てきます。
話し合いの場で決めきれない行は、表の横の保留欄に書き写して次の見直し日に回し、決まった行から手順書にします。
決めた手順は、会議で読み上げて終わりにはしません。手順書の形にして、申し送りなら詰所のように、その手順を使う場所に置きます。
保留欄の行が減らないまま会議が続くときは、2.1のマニュアル作成支援で施設長と表を読み、手順書の1枚に起こします。2.1の支援実績は650社です。どの違いを残すかは、事業所の皆さんが決めます。
書いた後に|新人に読んでもらい、直す日を決める
決めた手順を1枚にしたら、新人にその1枚だけを持って動いてもらいます。分からなかった段階を直し、次に見直す日も決めます。
1枚に段階を矢印でつないだ図を添えるのは、順番が一目で分かるからです。工程の多い業務を図から手順書に分ける進め方は、業務フローの手順書の作り方で扱っています。
注意
手順書に入れる写真や図には、利用者の顔、氏名、居室の表札が写り込まないようにしてください。撮る前に決めておくのは、写す範囲を職員の手元と道具だけにすることです。
新人が1枚を持って動いたら、その日のうちに分からなかった段階を聞き、説明を書き足します。
1枚の最下段に「次に見直す日」の欄を作り、1枚を置いた日に、その日付を書き込みます。事故やヒヤリハットが起きたときは、その日を待たずに、その場面にあたる行から直します。直す行の探し方は、ミスの再発防止を手順書で進める方法の記事と同じです。
外国人の職員に渡す手順書は、ここで決めた日本語の1枚を原本にして作ります。訳す前に整えておく点は、外国人スタッフに渡すマニュアルの作り方を参考にしてください。
利用者の氏名を消したファイルをマニュアル品質診断ツールに入れると、文書の書き方を無料で診断できます。対応するのはWord・PDF・テキストのファイルで、ケアの中身の良し悪しは診断しません。
介護の手順書の作り方でよくある質問
手順書で揃えるのは骨組みだけで、利用者ごとの違いや、事業所ごとの書く単位は残せます。
Q1. 個別ケアなのに、手順書で揃えてよいのですか?
はい、揃えるのは骨組みだけです。比べ表で「利用者の状態に合わせた違い」に分類した行は、場合分けとして手順書に残ります。
Q2. 書き出しを嫌がる職員がいるときはどうしますか?
頼む前に、書き出しの使い道を伝えてください。書き出しは違う行を見つけるために使い、書かれた内容の出来を採点する人はいません。書くこと自体を嫌がる職員には、聞き手が横で話を聞き、その職員の言葉のまま書き取ります。
Q3. 通所・施設・訪問で進め方は変わりますか?
書き出す、見比べる、決めるの流れは同じです。変わるのは書く単位で、訪問なら1回の訪問、通所なら送迎1便、施設なら1回の入浴の介助のように区切ります。自治体の基準や運営指導での手順書の扱いは、所管の自治体に確認してください。
Q4. 手順書に写真や図を入れたほうがよいですか?
入れたほうが伝わります。ポータルは、文字だけの手順書は理解しづらく、写真や絵を交えたフロー図が有効だとしています。写真は、道具の置き場所や記録用紙の書き込み欄など、言葉で書くと長くなる所から入れます。
まとめ|書き出して見比べるところから始める
次の職員会議の議題に、「同じケアを3人に書き出してもらう」と1行足してください。会議で業務を1つ選び、3枚がそろった週のうちに比べ表へ並べて、施設長か主任が1人ずつ話を聞く日を決めます。理由で分けて決めた骨組みが、手順書の最初の1枚になります。
表を読んで1枚に起こす手が回らないときは、2.1にご相談ください。
内容を確認後、担当者よりご連絡いたします。

