フリーランス法は、2024年11月1日に施行されています。正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」です。
架空の例で考えます。11月10日の夕方、外注のデザイナーから制作物のデータがメールで届いた。発注した担当者は翌朝から出張で、届いたことを誰にも伝えていない。経理は請求書を受け取ってから支払予定を組む決まりで、請求書が来たのは1月の半ばだった。発注のメールに書いた支払期日の1月8日は、もう過ぎていた。
発注のメールには金額も期日も書いてありました。抜けていたのは、その控えと受け取った日を経理へ渡す決まりと、請求書を待たずに払う決まりです。
この記事の結論
- 支払期日は、フリーランスから納品物などを受領した日から数える
- 発注の控えと受領日が経理に届かない限り、経理は期日を守れない
- 発注担当・受領を確認する人・経理が、誰に・何を・いつまでに渡すかを1枚の表にして、発注の手順書に入れる
- 請求書が来なくても、振込手数料を差し引かずに、定めた期日に払う
この記事は、フリーランス法のうち発注側の取引のルールを、社内の手順に書き起こす話です。下請法(取適法)の話は含みません。個別の契約や取引が法律に合うかどうかは、弁護士・社会保険労務士や、公正取引委員会・労働局の窓口にご確認ください。
出典:厚生労働省「フリーランスとして業務を行う方・フリーランスの方に業務を委託する事業者の方等へ」
フリーランス法で発注側が守ること|手順書の範囲
発注側の義務は下の表の7項目で、どれが自社にかかるかは、従業員を使っているかと委託の期間で決まります。従業員を使っていない会社にかかるのは、取引条件の明示だけです。
公正取引委員会のQ&AのQ3は、「従業員を使用」の意味を説明しています。週の所定労働時間が20時間以上で、31日以上続けて雇う見込みの人がいる場合です。短時間・短期間だけ雇う人は含みません。
| 義務 | かかる発注事業者と委託期間 | この記事で書く場所 |
|---|---|---|
| 書面などによる取引条件の明示 | すべての発注事業者 | 発注の場面 |
| 報酬支払期日の設定・期日内の支払 | 従業員を使用している(期間を問わない) | 受領の場面・支払の場面 |
| 7つの禁止行為 | 従業員を使用し、委託が1か月以上 | 手順書に足す欄 |
| 募集情報の的確表示 | 従業員を使用している(期間を問わない) | 扱わない |
| 育児介護等と業務の両立への配慮 | 従業員を使用し、委託が6か月以上 | 手順書に足す欄(1文) |
| ハラスメント対策の体制整備 | 従業員を使用している(期間を問わない) | 手順書に足す欄 |
| 中途解除等の事前予告・理由開示 | 従業員を使用し、委託が6か月以上 | 手順書に足す欄(1文) |
明示・支払期日・禁止行為の3つが、発注から支払までの社内の業務に直接関わります。手順書の中心は、この3つを守るための受け渡しになります。
出典:公正取引委員会「2024年公正取引委員会フリーランス法特設サイト」発注事業者の義務の確認チャート/公正取引委員会「フリーランス法Q&A」
発注手順書の受け渡し表|誰が誰に何をいつ渡すか
発注・受領・支払の場面ごとに、3役が渡すものを1枚の表にしておけば、担当者が替わっても受領日が経理まで届きます。
3役は、発注担当・受領を確認する人・経理です。受領を確認する人は、会社によって発注担当本人、現場の責任者、検収の担当と変わります。部署名で決めず、受領日を最初に知る人がこの役です。
表を作る前に、今の発注から支払までの仕事を、誰がどの順に受け持っているか書き出します。書き出し方は、事業承継に備える業務の見える化の記事と同じ進め方でできます。
コピーして使える発注・受領・支払の受け渡し表
「いつまでに」の列のうち、法律と書いたもの以外は2.1の整理で、法律の期限ではありません。経理の締め日から逆に数えて、自社に合う期限に書き換えてください。
| 場面 | 誰が | 誰に | 何を渡す | いつまでに | 渡せなかったときの動き | 根拠 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 発注 | 発注担当 | フリーランス | 取引条件の明示8項目(メールなら送信の記録を残す) | 業務を頼んだら直ちに(法律) | 作業が先に始まっていたら、その日のうちに送る | 特設サイト2026 |
| 発注 | 発注担当 | 受領を確認する人・経理 | 発注の控え(報酬の額・支払期日・納期・検査完了期日) | 明示を送った当日 | 経理は受領日の連絡を受けた時点で、発注担当に控えを求める | 社内の整理 |
| 受領 | 受領を確認する人 | 経理 | 受領日(検査をするなら検査完了日も) | 受領した当日か翌営業日 | 経理は納期の翌営業日に、受領を確認する人へ受領の有無を聞く | Q&A Q45 |
| 受領(やり直し) | 受領を確認する人 | 経理・発注担当 | フリーランス側に原因があり、支払の前にやり直してもらったことと、やり直し後の受領日 | やり直し後に受領した当日か翌営業日 | 経理は前の受領日の支払予定を消さずに、発注担当に確かめる。発注側の都合で頼んだ変更は、この行に当たらない | Q&A Q46 |
| 支払 | 経理 | 支払の予定表 | 受領日から数えた60日目と、明示した支払期日 | 受領日の連絡を受けた当日 | 明示した支払期日が60日目より後なら、60日目までに払えるよう発注担当と支払日を決め直す | Q&A Q45・特設サイト2026 |
| 支払(請求書が来ない) | 経理 | 発注担当を通してフリーランス | 振込先と請求書の様式の確認 | 支払期日の10営業日前 | 請求書が来なくても、確かめた振込先へ期日に払う | Q&A Q58 |
| 支払 | 経理 | フリーランス | 報酬(振込手数料を差し引かない額) | 明示した支払期日(法律) | 支払日が金融機関の休業日に当たるときの扱いを、発注のときに決めておく | Q&A Q30・Q78・特設サイト2026 |

公正取引委員会は、取引の流れごとのチェックリスト(PDF)と注文書のひな形(Excel)を公開しています。チェックリストで守る項目を確かめ、この表で社内の誰がいつ渡すかを決めます。
発注を初めて任される人がこの表1枚で次の動きを言えなければ、その行を書き直します。「それ、新人にできますか?」という、私が表を作るたびにする確認です。
チェック
表ができたら、発注を初めて任される人に聞きます。
- 受領日を、誰に、いつまでに伝えるか
- 請求書が来ないとき、支払期日の何日前に何を送るか
- 明示した支払期日が、どこに書いてあるか
表の期限で法律が決めているのは2か所
法律が決めているのは、取引条件の明示と支払期日の2か所です。明示は業務を頼んだあと直ちに行い、支払期日は受領日から60日以内のできる限り短い期間で定めます。
受領した当日か翌営業日、支払期日の10営業日前といった期限は、この2か所を守るために2.1が置いた社内の目安です。法律の期限と社内の期限を同じ列で区別して書いておくと、締め日を変えるときに、動かしてよい期限がどれかで迷いません。

出典:公正取引委員会「2026年公正取引委員会フリーランス法特設サイト」/公正取引委員会「取引フロー別チェックリスト」(PDF)
発注の場面|フリーランスに渡す8項目と社内の控え
発注担当がフリーランスに渡すのは、公正取引委員会の特設サイトが挙げる次の8項目です。
- 発注事業者とフリーランスの名称
- 業務委託をした日
- 業務の内容
- 納品や作業の期日
- 納品場所や作業場所
- 検査完了期日(検査をする場合のみ)
- 報酬の額と支払期日
- 報酬の支払方法(金銭以外で支払う場合のみ)
明示は書面か電磁的方法で、業務を頼んだら直ちに行います。口頭で伝えただけでは足りません。電磁的方法には、メールやSNSのメッセージなどが入ります。メールで送ったら、送信済みの記録を発注の控えと一緒に残します。
支払期日は、「毎月○日締め、翌月○日払い」のように日が特定できる形で書きます。「○月○日まで」「○日以内」と書いても、期日を定めたことにはなりません。
発注担当は、8項目のうち報酬の額・支払期日・納期・検査完了期日を、受領を確認する人と経理にも渡します。これは受け渡し表の2行目にあたる控えです。控えがないと、経理は60日目と明示した期日を照らし合わせられません。
明示を送る前に社長の承認が要る会社では、社長が外に出ている日に発注が止まり、明示も遅れます。承認が社長1人に集まる状態を減らす方法は、社長が現場から抜けられない理由の記事に書きました。
出典:公正取引委員会「2026年公正取引委員会フリーランス法特設サイト」/公正取引委員会「フリーランス法Q&A」Q41
受領の場面|受領を確認する人が経理へ伝える
支払期日を数える起点は、給付を受領した日です。公正取引委員会のQ&AのQ45は、受領した日を算入するとしているので、受領日が1日目になります。
Q45は、受領した日を次のように説明しています。
- 物品:検査をするかどうかにかかわらず、受け取って自社の占有下に置いた日
- 情報成果物:記録媒体を受け取り、自社の手元に置いた日。電子メールで受け取ったファイルは、パソコンなどに記録された時点
- 役務:個々の役務の提供を受けた日。日数がかかるものは、一連の提供が終わった日
情報成果物と役務には例外があり、Q45は公正取引委員会と厚生労働省の「考え方」を見るよう案内しています。

冒頭の場面では、データがメールで届いたのは11月10日で、担当者が中身を開いたのは出張から戻った週でした。受領を確認する人が経理へ渡す受領日は、ファイルがパソコンに記録された11月10日で、中身を開いた日は使いません。メールで届いたものは、届いた日時の記録も一緒に経理へ渡しておくと、あとで数え直せます。
検査をする場合は、発注のときに検査完了期日を明示し、受け渡し表の3行目で検査完了日も受領日と並べて経理に渡します。
フリーランス側に原因があって支払の前にやり直してもらったときは、やり直し後の受領日が起算日です(Q46)。Q46が例に挙げるのは、給付の内容が業務委託のときに明示した内容と違う場合です。受領を確認する人は、更新した受領日をもう一度経理に渡します。
受領日が経理に届かなかったら、担当者への注意で終わらせず、表のどの行で止まったかを確かめます。止まった行の直し方は、ミスの再発防止で手順書を直す手順と同じ進め方です。
支払の場面|受領日から60日目を暦で数える
経理は受領日の連絡を受けたら、受領日を1日目として60日目を数え、支払の予定表に書きます。下の表では、架空の受領日を置き、カレンダーで60日目を数えました。
| 受領日 | 60日目 | 月末締め・翌月末払い | 月末締め・翌々月末払い |
|---|---|---|---|
| 2026年11月10日(火) | 2027年1月8日(金) | 12月末日:60日目より前 | 1月末日:60日目を過ぎる |
| 2026年12月1日(火) | 2027年1月29日(金) | 1月末日:Q48の運用の対象(表の下を参照) | 2月末日:60日目を過ぎる |
表の月末のうち、2026年12月31日は金融機関の休業日、2027年1月31日は日曜日です。翌月末払いの列は、前の営業日(12月30日・1月29日)に払えば、どちらの行も60日目までに収まります。翌営業日に順延するなら、発注のときに書面などで順延を合意しておきます。特設サイト2026が問題としないのは、順延が2日以内の場合と、順延後も受領日から60日以内に収まる場合です。
12月1日に受領した分を1月31日の日付で数えると、60日目の1月29日を2日過ぎます。Q48は、月末締め・翌月末払いのような月単位の締切制度を取り上げています。その場合は60日以内を受領した日から2か月以内として運用し、問題としないという回答です。
翌々月末払いは、どちらの受領日でも60日目を過ぎます。月末締めで払っている会社は、発注の前に、翌月末までに払える締め方になっているかを確かめます。
Q58は、フリーランスが請求書を出さないことを、支払が遅れてよい理由として認めていません。
経理は支払期日の10営業日前になっても請求書がなければ、発注担当を通して振込先と請求書の様式を確かめます。催促の文面にはせず、期日に払うための確認として送ります。
注意
振込手数料を報酬から差し引くと、報酬の減額として問題になります(Q&A Q30・Q78)。フリーランスとの合意があっても減額に当たる、というのがQ78の答えです。特設サイト2026は、2026年1月1日以降に業務委託した取引でこの扱いを示しています。2025年12月31日以前に委託した取引は扱いが別に書かれているので、特設サイトで確かめてください。
支払期日のように期限が決まった連絡は、誰が誰に、いつまでに伝えるかを役割の名前で手順に書きます。最初に電話する相手を役割で書く作り方は、中小企業で労災が起きたときの初動の記事でも使いました。
出典:公正取引委員会「フリーランス法Q&A」Q30・Q45・Q48・Q58・Q78/公正取引委員会「2026年公正取引委員会フリーランス法特設サイト」
受け渡しが止まるとき|休み・異動と手順書の更新
受け渡しが止まりやすいのは、受領を確認する人や経理が休んだ日と、担当が替わった月です。
発注担当の出張中に納品物が届くと、受領日は現場の誰か1人しか知りません。表の「誰が」の欄には、本人が休みのときに代わる人の役割を足しておきます。
育休や異動で担当が替わるときは、進行中の発注ごとに受領日と支払期日を書き添えた受け渡し表を、引き継ぎの資料に入れます。引き継ぎの資料の作り方は、中小企業の育休の引き継ぎの記事に手順があります。
表は、最初から全部の欄を埋めなくて構いません。私は、手順書は30点で使い始めて、使いながら直すものだと考えています。実際に納品物を受け取った月に、どの行で手が止まったかを見て、その行から書き直します。
今ある発注の手順書をマニュアル品質診断ツールにかけると、再現性や検索性などの評価が返ってきます。返ってくる評価は、どの行から書き直すかを決めるときの目安です。
診断ツールはWord・PDF・テキストのファイルを読み込み、診断後に破棄します。フリーランス法への適合は、判定の対象外です。発注の手順書がまだなければ、受け渡し表の7行を埋めてから診断にかけてください。
発注手順書に足す欄|禁止行為の確認と相談窓口
受け渡し表の「渡せなかったときの動き」の列に、禁止行為に当たる動きは書きません。
1か月以上の業務委託では、受領拒否、報酬の減額、返品、買いたたきなど、7つの行為が禁じられています。公正取引委員会のチェックリストでは、受領から支払までの項目に、受領拒否・不当なやり直し・返品・報酬の減額の4つが並びます。
手順書の受領の行には、確認欄を1つ足します。受け取らない、やり直しを頼む、金額を変えるといった判断の前に、明示のメールに書いた内容と発注担当が照らし合わせる欄です。
従業員を使用している発注事業者には、ハラスメント対策の体制整備も求められています。手順書には、フリーランスが相談できる窓口と、その連絡先を明示のメールに書き添える欄を置きます。体制として何を整えるかは、厚生労働省の資料か労働局で確かめてください。
社外の人に向けて窓口を決め、知らせる手順は、中小企業の就活セクハラ対策の記事で、求職者向けの窓口として書きました。
6か月以上の委託では、育児・介護との両立への配慮と、中途解除などの少なくとも30日前までの予告も対象になります。
出典:公正取引委員会「2026年公正取引委員会フリーランス法特設サイト」/公正取引委員会「取引フロー別チェックリスト」(PDF)/公正取引委員会「2024年公正取引委員会フリーランス法特設サイト」
フリーランス法の発注手順書でよくある質問
従業員がいない会社でも取引条件の明示は求められ、明示はメールでも行えます。
Q1. 従業員がいない会社が発注しても対象ですか?
対象です。従業員を使用していない発注事業者にかかるのは、書面などによる取引条件の明示です(2024年特設サイトの確認チャート)。週20時間以上・31日以上の雇用見込みの人を雇うと、支払期日などの義務も加わります(Q&A Q3)。
Q2. 発注の条件はメールで送ってもよいですか?
送れます。明示は書面のほか電磁的方法でもよく、メールやSNSのメッセージが含まれます(特設サイト2026・Q&A Q41)。電話で伝えただけでは明示になりません。送ったメールは、受け渡し表の控えと一緒に保管します。
Q3. やり直しを頼んだら、60日はいつから数えますか?
フリーランス側に原因があって、支払の前にやり直してもらった場合は、やり直し後の給付を受領した日から数えます(Q&A Q46)。役務の場合は、やり直したあとに役務を提供した日です。受領を確認する人は、新しい受領日を経理に伝え直します。
Q4. フリーランスが請求書を出してくれないときは?
請求書を待たずに払います。請求書を待って支払予定を組む会社は、フリーランスとの取引だけでも、受領日の連絡で予定を組む決まりに変えておきます(Q&A Q58)。
まとめ|受領日を起点に、3役の受け渡しを1枚にする
受領を確認する人が当日か翌営業日に受領日を経理へ渡せば、経理は60日目を数えて支払期日を守れます。まずは今動いている発注を1件選び、受け渡し表の7行を埋めてみてください。埋まらなかった行が、発注の手順書に足す行です。
2.1では、発注担当と経理から今の受け渡しを伺い、7行の表を御社の手順書の形に書き起こします。契約書の確認やフリーランス法の適用の判断、個別の取引の判断は、弁護士・社会保険労務士などの領域なので扱いません。
内容を確認後、担当者よりご連絡いたします。

