夕方、作業中に従業員がケガをして、同僚が付き添って病院へ向かった。社長は外出先で電話に出られず、総務の担当者はもう帰っている。現場責任者は、次に誰へ電話するのかも、病院の受付で何を伝えるのかも聞かされていない。

この場面は、記事のために作った架空のものです。電話をかける順番も、病院で伝えることも、あとで出す書類のことも、社長の頭の中にしかありません。初めての事故だと、何から聞けばよいかが分からないまま、時間だけが過ぎていきます。

この記事の結論

  • 労災が起きたとき、会社が労働基準監督署に出すのは労働者死傷病報告で、本人が出すのは労災保険の請求書になる
  • 会社は請求について、事業主としての証明と、手続きの助力を受け持つ
  • 第一報で聞いた発生状況と原因は、死傷病報告にも、請求書の事業主の証明にも書く内容になる
  • そのため、電話をかける順番は役割で書き、第一報で聞く項目は書類の欄に合わせて並べておく
  • 書いた手順は現場の誰もが見える場所に置く。救護が先で、手順は病院への手配と並行して進める部分にあたる

119番への通報と救護は、この記事の手順より先に行います。ここでいう初動は、救護のあと、病院への手配と並行して進める会社の連絡と記録の動きです。労災は仕事中のケガ(業務上の負傷)を指し、通勤途中のケガは扱いません。第一報は、事故を最初に知った人から社内に上がる連絡と、そのとき聞き取る内容のことです。

労災が起きた日に会社が出すものと本人が出すもの

会社が労働基準監督署(労基署)に出すのは、労働者死傷病報告(死傷病報告)です。本人は、労災保険の給付を受けるために請求書を出します。会社は請求について、証明と手続きの助力を受け持ちます。

死傷病報告は、労働者が労働災害などで死亡したときや休業したときに、会社が出す報告です(安衛則第97条)。休業の見込みが4日以上か4日未満かで、出す時期が変わります。休業4日以上(死亡を含む)は遅滞なく報告します。

4日未満の分の報告は、1〜3月、4〜6月、7〜9月、10〜12月の区切りごとにまとめる形です。期限は、それぞれの区切りの最後の月の翌月末日です。厚労省は、帳票入力支援サービスの資料を電子申請の手引きとして出しています。その例では、4月4日に起きた災害の期限は7月31日です(手引きp.6)。

令和7年(2025年)1月1日から、死傷病報告は電子申請が原則になりました。パソコン端末を所持していない等の事情で電子申請が難しい場合は、当分の間、書面でも報告できます。電子申請に要るのは、e-GovアカウントかGビズIDでのログインです(手引きp.4)。MicrosoftやGoogleのアカウントでもログインできます。

本人が出す請求書の様式は、厚労省の「労災保険給付関係主要様式」のページにあります。治療と治療費の請求に使う様式第5号と第7号(1)、休んだ間の補償を求める様式第8号です。休業補償給付は、賃金を受けない日の4日目から支給されます(労災保険法第14条)。最初の3日間の扱いは、社会保険労務士か労基署に確かめてください。

会社が関わるのは、様式第5号の請求書に書く負傷の年月日と、災害の原因及び発生状況です。この2つは、事業主の証明を受けなければなりません(労災保険法施行規則第12条)。本人が自分で手続きを進めにくいときは、会社は手続きができるよう助力します。本人に求められた証明は、すみやかに行います(同規則第23条)。

会社が出すもの・本人が出すもの・会社が関わるもの

通勤途中のケガは、請求書の様式が別です(様式第16号の3・第16号の5)。火災や爆発などの特定の事故には、死傷病報告とは別の報告(安衛則第96条)もあります。該当するかどうかは、労基署に確かめてください。

出典:e-Gov法令検索「労働安全衛生規則」/厚生労働省「労働者死傷病報告の報告事項が改正され、電子申請が義務化されました(令和7年1月1日施行)」/厚生労働省「帳票入力支援サービスを活用した労働者死傷病報告の電子申請方法について(令和7年1月1日から)」(PDF)/厚生労働省「労災保険給付関係主要様式」/e-Gov法令検索「労働者災害補償保険法」/e-Gov法令検索「労働者災害補償保険法施行規則」

労災の初動が電話一本に頼っていると抜ける4か所

誰が何をするかが紙にもファイルにも書かれていないと、事故のあとで対応が抜けます。

①最初に誰へ電話するかが決まっていない

ケガに気づいた人は、まず社長の携帯電話にかけます。社長は打ち合わせ中で出られず、折り返しを待つ間、病院へ付き添う人も決まりません。電話をかける順番と、社長が出られない日の代理が、どこにも書かれていない状態です。

②病院の受付で仕事中のケガだと伝わらない

付き添った人は、受付でいつものように本人の健康保険証を出します。労災の請求書の用紙は会社の棚にあり、病院に渡せるものは手元にありません。

厚労省のリーフレットは、業務中や通勤途中のケガに健康保険は使えないとしています。労災指定病院で受診して請求書を出せば、治療費の自己負担はかかりません。労災指定病院とは、都道府県労働局長が指定した医療機関のことです。受付で伝えることと渡すものが決まっていないと、最初の受診が健康保険で進んでしまいます。

③第一報の聞き取りがあとで聞き直しになる

当日に分かったのは、作業中にケガをしたということだけでした。数日後、死傷病報告と請求書の証明欄を書くときに、事故の場所や作業の中身が必要になります。総務は休んでいる本人と現場の人に、もう一度話を聞くことになります。

厚労省の手引きは、発生状況を「単に『作業中』とせず」に書くよう求めています(手引きp.25)。原因も「労働者の不注意」で終わらせず、関係する人から聞き取って具体的に書くとしています。聞く項目を前もって決めていなければ、当日はそこまで具体的に聞き取れません。

④会社が出す報告と本人の請求が混ざる

現場では「労災の手続きは本人が病院で済ませた」と受け止め、死傷病報告には誰も手を付けていません。反対に、本人が請求書を持ってきたのに、証明欄を誰が書くのかが決まっていない会社もあります。

死傷病報告の担当が決まらないまま日が過ぎると、休業4日以上のケガで求められる「遅滞なく」の報告が後回しになります。

出典:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「労働災害の場合は、必ず労災保険を請求しましょう」(PDF)/茨城労働局「労災指定病院とは」

中小企業が労災の初動を連絡と記録の手順に書き起こす

連絡は役割の順に、記録はあとで出す書類の欄に合わせて書いておくと、社長や総務がいない日でも同じ順で動けます。

手順1|最初に電話をかける順番を役割で書く

電話の順番を書くのは、社長と現場責任者です。最初に、ケガに気づいた人が電話をかける相手を決めます。その相手は現場責任者にします。現場の様子が分かる人に先に連絡が届けば、病院へ付き添う人をその場で決められるからです。

現場責任者は次に社長へ知らせ、社長が出られない日は、あらかじめ決めた代理1人へ知らせます。社長か代理は、付き添っている人に、病院の受付で伝えること(手順3)を確かめます。そのうえで知らせる先は、書類を出す人(総務)と、請求の証明と助力の窓口です。

紙には役割の名前を書き、その役割に当たる人の名前と電話番号は、各社で書き込みます。電話の相手を探して現場が迷う時間は、手順を書いておけば減らせると私は考えています。

最初の電話は役割の順に上がる

手順2|第一報で聞く項目を報告書の欄に合わせる

第一報で話を聞くのは現場責任者で、聞いた内容をまとめるのは総務です。聞く項目は、死傷病報告の主な欄に合わせて選びます(安衛則第97条第1項)。被災した人の氏名と職種、発生した日時と場所、傷病の名称と部位、休業の見込みなどです。傷病の名称と部位は、その時点で分かる範囲で足ります。

発生状況と原因は、厚労省の手引きにある5段の問いに沿って聞きます(手引きp.25〜27)。聞く相手には、本人のほか、そばにいた人も含めます。答えを「不注意」の一言にまとめず、何がどういう状態だったかを書き留めます。

チェック

発生状況と原因を聞く5段の問い(厚労省の手引きをもとに作成)

  • どのような場所で起きたか
  • どのような作業をしていたときか
  • どのような物や環境が関わったか
  • どのような不安全な状態や有害な状態があったか
  • どのような災害が起きたか(ケガの部位など)

同じ発生状況と原因は、請求書で事業主が証明する欄にも書きます(労災保険法施行規則第12条)。安衛則第97条と施行規則第12条を並べると、第一報で聞いた内容は死傷病報告と請求書の証明の両方に使われます。この対応は、条文からこの記事で整理したものです。聞く項目を書類の欄に合わせておけば、数日後に同じことを聞き直さずに済みます。

第一報の聞き取りが2つの書類に入る

手順3|病院で伝えることと渡すものを書いておく

病院で伝えることは、付き添う人と総務で決めます。付き添う人が受付で伝えるのは、仕事中のケガだということです。そのとき、健康保険証は出しません。

労災指定病院なら、本人が様式第5号の請求書を病院に出します。請求書は病院から労基署へ送られる仕組みです。会社は様式第5号を厚労省のページから入手し、1部を印刷して、置き場所を手順に書いておきます。印刷は実際のサイズで行い、印刷した用紙をコピーして使わないよう、厚労省が注意を促しています。事業主の証明欄は、会社が書き込む欄です。

近くの労災指定病院は、厚労省の「労災保険指定医療機関検索」で探せます。指定病院以外で受診したときや、健康保険で受診してしまったときは、使う様式と出す先が変わります。

手順4|報告と請求の担当を分けて書く

担当を決めるのは社長です。死傷病報告は総務が受け持ち、休業の見込みが4日以上なら遅滞なく、4日未満なら区切りごとにまとめて出します。電子申請の前提は、アカウントの事前の取得です(手引きp.4)。取得は事故が起きる前に済ませておきます。

報告を作る人の欄には、災害の発生状況が分かる人の名前を書きます。労基署から問い合わせが入る場合があるためです(手引きp.31)。

請求については、本人から証明を頼まれたときに受ける窓口の担当者を1人決めます。窓口の人は証明をすみやかに行い、本人が手続きを進めにくいときは手を貸します(労災保険法施行規則第23条)。

出典:厚生労働省「帳票入力支援サービスを活用した労働者死傷病報告の電子申請方法について(令和7年1月1日から)」(PDF)/e-Gov法令検索「労働安全衛生規則」/e-Gov法令検索「労働者災害補償保険法施行規則」/厚生労働省「OCR様式について」(PDF)

事故のときの連絡先や手順を、WordやPDFの文書にまとめている会社もあります。その文書は、マニュアル品質診断ツールにかけられます。

そのマニュアル、現場で使われていますか

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労災指定病院かどうかで変わる請求の流れ

受診した病院が労災指定病院なら、請求書は病院を通して労基署へ届き、窓口での支払いはありません。指定病院以外で受診した場合や、健康保険で受診した場合は、請求書の様式と提出先が変わります。

比較項目 ①労災指定病院で受診した ②指定病院でない病院で受診した ③健康保険で受診し、病院で切り替えられない
使う請求書 様式第5号(療養の給付の請求書) 様式第7号(1)(療養の費用の請求書) 様式第7号(1)(療養の費用の請求書)
出す先 病院(病院から労基署へ送られる) 労基署に直接出す 労基署に直接出す
治療費の扱い 窓口での支払いはない いったん立て替え、請求すると全額が支払われる 健康保険の保険者に労災だったと伝え、届いた納付書で返納してから請求する(本人が担当医師の証明と領収書を添える)
会社が関わること 事業主の証明 事業主の証明 事業主の証明

健康保険で受診してしまったときは、まず受診した病院に、労災保険に切り替えられるかを確かめます。切り替えられた場合、本人は様式第5号を病院に出し、窓口で払った一部負担金は返還される扱いです。切り替えられないときが③で、返納が難しい場合は返納が終わる前でも請求できます。様式は、使う前に厚労省の様式のページで最新のものを確かめてください。どの列に当たるか迷うときの問い合わせ先は、管轄の労基署です。

出典:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「労働災害の場合は、必ず労災保険を請求しましょう」(PDF)/厚生労働省「労災保険に関するQ&A 2-1 健康保険証を使って受診してしまいました」/厚生労働省「労災保険給付関係主要様式」

労災の初動を手順にする会社と専門家に頼む場面

この手順が合うのは、事故の連絡先が社長の頭の中にしかない会社です。

社長が外出や出張で不在の日がある会社や、現場責任者が数人いて聞き方がそろっていない会社にも合います。死傷病報告の担当が決まっていない会社は、手順4の担当決めから先に進めても構いません。

手順を書くより先に別の相手へ相談したい場面は、次のとおりです。

  • 今まさに被災した人がいる:救護と医療が先です。手続きは労基署か社会保険労務士に相談します
  • 労災に当たるか、給付の金額、休業中の賃金、会社の責任を判断したい:社会保険労務士・弁護士・労基署の領域です
  • 事故の原因を調べて再発を防ぎたい:連絡と記録を終えたあとの作業です。設備や機械の調査は安全の専門家に頼みます

注意

株式会社2.1は、社会保険労務士事務所でも法律事務所でもありません。

労災の初動でよくある質問

休業が短いケガでも死傷病報告は出し、パートやアルバイトのケガも労災保険の対象です。

Q1. 休業が1〜2日のケガでも死傷病報告は必要ですか?

必要です。休業4日未満のケガは、3か月ごとの区切りでまとめて報告します(安衛則第97条第2項)。4月4日に起きた場合の期限は、7月31日です(手引きp.6)。休業しなかったケガは、手引きの流れ図では報告の対象から外れています。判断に迷うときは、労基署に確かめてください。

Q2. パートやアルバイトも労災保険の対象ですか?

対象です。厚労省は、労働者であればアルバイトやパートタイマー等の雇用形態は関係ないとしています。労災保険の労働者は、職業の種類を問わず、事業に使用されて賃金を支払われる人です。個別の人が労働者に当たるかは、労基署に確かめてください。

出典:厚生労働省「労災補償」

Q3. 本人が手続きを進められないとき会社は何をしますか?

手続きができるように助力します。労災保険法施行規則第23条第1項が、事業主に求めていることです。本人から必要な証明を求められたら、すみやかに証明します(同条第2項)。会社がどこまで手続きに関わるかは、社会保険労務士に確かめてください。

Q4. 健康保険証で受診してしまったらどうしますか?

最初に、受診した病院へ労災保険に切り替えられるかを確かめます(リーフレットp.2)。切り替えられれば、様式第5号を病院に出す流れです。切り替えられないときは、加入している健康保険組合か協会けんぽに、労働災害だったと報告します。届いた納付書で返納してから、様式第7号(1)で労基署に費用を請求します(厚労省Q&A 2-1)。

出典:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「労働災害の場合は、必ず労災保険を請求しましょう」(PDF)/厚生労働省「労災保険に関するQ&A 2-1 健康保険証を使って受診してしまいました」

Q5. 電子申請ができない場合は書面で報告できますか?

できます。パソコン端末を持っていないなどの事情で電子申請が難しい場合に限り、当分の間、書面での報告が認められています。電子申請に移るときは、e-GovアカウントかGビズIDでのログインが前提です(手引きp.4)。ログインには、MicrosoftやGoogleのアカウントも使えます。

Q6. 外国人スタッフが被災したとき報告に足す項目はありますか?

あります。国籍または地域の名称と、在留資格の区分です(安衛則第97条第1項第10号)。外国人スタッフに渡す手順書の作り方は、外国人スタッフに渡すマニュアルの作り方|翻訳の前に整える手順で扱っています。

まとめ|電話の順番と聞く項目を書いておく

労災の初動で最初に書くのは、ケガに気づいた人が電話をかける現場責任者と、社長が出られない日の代理です。この2人の役割と電話番号を紙に書いたら、その下に第一報で聞く項目を足します。

病院で伝えることと、報告と請求の担当まで書けたら、その紙を現場の誰からも見える場所に置きます。事故が起きた夕方に、現場責任者が最初に見るのがその紙です。

事故のあとで原因を調べ、手順書を直す進め方は、ミスの再発防止は手順書の1行から直す|起きた後の見直し方で扱っています。

2.1がお手伝いするのは、事故のときの電話の順番と聞き取る項目を、現場で開ける手順の形に書き起こすところです。労災に当たるかの判断、給付の手続きや代行、金額、法的な助言、安全衛生教育、事故の原因調査は扱っていません。

事故の連絡と記録を手順に

事故の連絡手順を相談する

内容を確認後、担当者よりご連絡いたします。