開店まで3週間。内装業者が、レジ横の棚に並べる商品の一覧を求めてきた。1店舗目の店長に電話すると、「いつも、なんとなく置いています」という答えが返ってきた。

2店舗目を出せば、オーナーは2か所に同時にはいられません。1店舗目の店長を2店舗目に回すと、今度は1店舗目が崩れそうで怖い。支店や事務所、教室の2拠点目でも、同じことが起きます。

1店舗目の開店前の段取りは、店長やスタッフの頭の中にあるだけで、紙には1行も残っていません。

この記事の結論

  • 2店舗目の出店準備で最初にやるのは、2店舗目の開店初日の1日から逆算して仕事を書き出すこと。1店舗目の仕事を全部洗い出すところからは始めない
  • 1店舗目には、手順書にない仕事を、その場の人の段取りや気配りで補っている部分がある。書き出さないと2店舗目には渡らない
  • 2店舗目でつまずくのは、うまくいった理由を説明できないとき、判断がオーナーに集まるとき、口頭で伝えてやり方がずれるとき
  • 進め方は4つの手順。開店初日に働く人ごとに仕事を書き出す、判断の引き渡し台帳をつくる、書いた紙だけで動いてもらう、見直す日と直す人を決める
  • 書き出す細かさは「それ、新人にできますか?」で測る。開店の日は、2店舗目で働く全員が新しい店の新人になる

2店舗目を出す前に、こんな困りごとはありませんか

準備が進むにつれて、こんな場面が出てきます。

  • 出店の準備は進んでいるのに、開店日に誰が何をするかを自分でも説明できない
  • 店長候補に「1店舗目と同じようにやって」と頼んだら、何をどこまで同じにするのかを聞き返された
  • 開店準備のあいだ携帯が鳴り続けそうで、休みの予定を入れられない

3つとも、答えを知っているのはオーナーか一部のスタッフだけです。このまま出店すると、その人が休んだ日に止まる店が2つになります。

1店舗目では、現場の人の段取りが仕組みの代わりをしてきました。お店が2か所に分かれると、同じ人が両方を補うことはできなくなります。

2店舗目の出店でつまずく3つの場面

立地と資金のめどが立ったあとに止まるのは、1店舗目のやり方を誰かに渡そうとしたときです。以下の場面に出てくる店や教室は、説明のために置いた架空のものです。

①1店舗目がうまくいった理由を説明できない

開店前の準備を、毎朝ひとりのスタッフが段取りよく片づけています。釣り銭を用意し、棚を補充し、その日の予約を確かめます。本人には当たり前すぎて、何をどの順でやっているのか、聞かれても言葉にできません。

2店舗目の店長候補が見学に来ても、「見て覚えて」で終わってしまいます。周りからは「あの店は、あの人がいるから回る」と言われます。段取りのどこが役に立っているのかは、本人に聞きながら書き出すまで誰にも見えません。

特定のベテランにしかできない技能を言葉にする進め方は、技能伝承をマニュアル化で進める4つの手順で詳しく書いています。

②判断が全部オーナーに集まる

欠品したとき、代わりに何を出すか。お客様から返金を求められたとき、応じてよいか。急な欠勤が出たとき、シフトを誰に替わってもらうか。

「どうしましょう」という連絡が、全部オーナーの携帯に入ります。2店舗目ができた途端、2か所から同時に電話が鳴ります。

判断の連絡がオーナー1人に集まって詰まる状態を、私は「社長渋滞」と呼んでいます。判断の基準がオーナーの頭の中にしかないので、誰にも任せられません。任せられない判断が1つでも残っていると、オーナーは2店舗分の電話番から抜けられません。

③口頭で伝えて、店ごとにやり方がずれる

店舗以外の例として、学習教室が2教室目を開いた場面で考えてみます。1教室目のやり方を、新しい教室長に口頭で説明しました。数か月後に見に行くと、受付での挨拶、教材の片付け、戸締まりの順番が少しずつ違っています。

口で伝えた中身は、聞いた人の記憶に残った分しか届きません。教室長が自分のスタッフに伝え直すと、届く中身はさらに減ります。

店舗でも教室でも、起きることは同じです。ずれが見つかったら、教室長に注意する前に、何をどう伝えたかを見直します。

1店舗目の手順メモや店長向けの引き継ぎ資料があれば、今の状態を確かめられます。

そのマニュアル、現場で使われていますか

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2店舗目の準備は「業務の見える化」から始める

3つの場面はどれも、1店舗目で人が補っていた所が、2店舗目で抜け落ちる場面です。

1店舗目で人が補っている仕事と、2店舗目で起きること

業務の見える化とは、頭の中や習慣、勘で行われている仕事を書き出し、誰が見ても同じ動きができる状態にすることです。書き出した仕事を、新人が迷わず再現できる形にまとめたものがマニュアルで、中身は手順、判断の基準、物の置き場所です。

2店舗目の準備では、1店舗目で人が補っている段取りを先に書き出しておきます。

書き出すときの物差しは、「それ、新人にできますか?」という問いです。2店舗目で働く人は、開店の日には誰もが新しい店の新人です。ベテラン同士なら「いつもの準備」で通じても、新人はその「いつもの」を知りません。

1店舗目の仕事を全部洗い出すところから始めると、量が多すぎて手が止まります。起点にするのは、2店舗目の開店初日の1日です。開店初日に要らない仕事は、開店後に回して構いません。1店舗目は、分からない所を聞きに行く先として使います。

2店舗目の出店準備、業務をマニュアルにする4つの手順

手順1〜3は開店前に終え、手順4の見直しは、開店前に日程と担当者を決めたうえで開店後に行います。かかる期間は、店の規模や業種しだいです。

2店舗目の準備:開店までと開店後の4つの手順

手順1|開店初日に働く人ごとに、任せる仕事を書き出す

担当:オーナーと、2店舗目の店長候補(聞き手役)

開店初日に2店舗目で働く人を、店長・スタッフのように役割で並べます。役割ごとに、その人が1人で任される仕事を付箋かスプレッドシートに1行ずつ書き、開店初日の仕事表にまとめます。

書き出しは1回30分までにして、埋まらなかった所は空欄のまま印を付け、1店舗目のスタッフに聞きに行く宿題にしてください。

1店舗目のスタッフなら黙っていてもできる行ほど、前提の知識が抜けています。そうした行には、その仕事に要る前提の知識を書き足します。たとえば「釣り銭を用意する」なら、どの金種を何枚、どこから出すかを書きます。店長候補が聞き手役になると、オーナーには当たり前の前提に気づきやすくなります。

ここまでの成果物は、前提の知識を書き足し、空欄に印を付けた仕事表1枚です。

開店初日の仕事表(記入例)

手順2|判断の引き渡し台帳をつくる

担当:オーナー(店長候補と一緒に)

開店初日の仕事表のうち、「迷ったらオーナーに聞く」仕事に印を付けます。欠品したときの代わりの出し方、返金に応じるか、シフト変更の承認などがこれにあたります。

印の付いた判断ごとに、いま誰が決めているか、決める基準、渡す先、オーナーに連絡する条件を1行で書きます。この1行を判断の数だけ並べたものが、判断の引き渡し台帳です。

判断の基準を言葉にすると、店長に渡せる判断と、渡せない判断が分かれます。店長に渡せない判断には、オーナーに連絡する条件を書いておきます。オーナーの携帯に連絡が集まったのは、基準がオーナーの頭の中にしかなかったからです。台帳に書いた判断なら、店長は電話する前に決める手がかりを持てます。

オーナーに連絡する条件の欄まで埋まれば、台帳はできあがりです。

判断の引き渡し台帳(記入例)

手順3|業務を知らない人に、書いた紙だけで動いてもらう

担当:まだ業務を知らない人(動く役)と、店長候補(印を付ける役)

開店初日の仕事表と判断の引き渡し台帳を、紙に印刷して渡します。渡す相手は、1店舗目に入ったばかりの新人や、普段は開店前の準備をしていないスタッフです。リハーサルでは、紙だけを頼りに、1店舗目で開店前の準備を1回通してやってもらいます。店長候補は横で見守り、教えたり口を出したりしません。

店長候補は、動いた人が止まった所や聞いてきた所に印を付けてください。止まった所には、紙に書かれていない前提が隠れています。書き足したら、別の人にもう一度見てもらいます。

リハーサルを省くと、教室の例と同じずれが2店舗目でそのまま起きます。書いた本人には、自分の書いた中身が通じるかどうかが分からないからです。

印の付いた所を書き足し終えた仕事表と台帳が、2店舗目の最初のマニュアルになります。

注意

リハーサルは、1店舗目の営業を止めない時間帯に行います。営業中のスタッフをリハーサルに回さず、開店前の準備時間か定休日を使ってください。

2店舗目に新しく入る人を迎える教え方は、初めての新卒採用、準備と受け入れマニュアルの作り方でも扱っています。

手順4|開店後に見直す日と、直す人を先に決める

担当:見直し担当者(1人)

開店の前に、開店から30日後に見直す日をカレンダーに入れます。30日は目安で、統計や法令に基づく数字ではありません。あわせて、マニュアルを直す担当者を1人決め、保管する場所を1か所に決めておきます。

2店舗のやり方に違いが出たら、どちらが正しいかを決める前に、なぜ違うのかを聞きます。2店舗目の工夫のほうが、新人に分かりやすい場合もあるからです。良い工夫は書き足し、ずれていれば元に戻します。

開店前に作ったマニュアルは、空欄が残っていても使い始めて構いません。見直す日と直す人が決まっていないと、開店後の忙しさでマニュアルの中身が古くなっていきます。

見直しを終えた時点で手元にあるのは、2店舗の違いを書き足したマニュアルです。

2店舗目の出店でよくある失敗

  • 全業務を一度にマニュアルにしようとする:書き終わらないまま開店日が来るか、途中で止まる。開店初日の分から始める(手順1)
  • 1店舗目のスタッフだけで書く:書いた人には当たり前の前提の知識が抜ける。業務を知らない人に紙だけで動いてもらう(手順3)
  • 2店舗で違いが出ても、誰も直さない:店ごとのやり方がずれたまま、マニュアルとも合わなくなる。直す人を先に決め、違いの理由を聞く(手順4)

チェック

開店日までに、次の4つに印が付くか確かめます。

  • □ 開店初日に働く全員の分の仕事表を書いた
  • □ 判断の引き渡し台帳に、オーナーに連絡する条件まで書いた
  • □ 業務を知らない人が、紙だけで開店前の準備を1回やった
  • □ 開店後に見直す日と、直す担当者が決まっている

この進め方が向いている会社・向いていない会社

開店日がカレンダーに入っていれば、その日がそのまま書き出しの起点です。出店するかどうかを迷っている段階なら、先に別の相談が要ります。

向いている会社

  • 1店舗目が回っていて、2店舗目の出店時期が見えている
  • オーナーが2か所に同時にいられないことに、不安がある
  • 1店舗目に「あの人頼み」の仕事があると自覚している
  • 事務所・教室・クリニックなど、店舗以外で2拠点目を考えている

向いていない会社

  • 出店するかどうかを決める前で、立地・資金・時期の相談をしたい
  • 1店舗目の経営の立て直しを、先に進めたい
  • マニュアル作りを外部に任せ、自社は書き出しに加わらずに済ませたい

1つ目と2つ目に当てはまる場合は、出店の判断や1店舗目の立て直しを先に進めてください。3つ目の形のご依頼は、私達はお受けしていません。手順1の聞き手役も手順3のリハーサルも、店の人が加わらないと進まないからです。

2店舗目の出店準備|マニュアルの用意の仕方を比べる

開店までの手間が軽い進め方ほど、開店後にオーナーの携帯が鳴る回数は減りにくくなります。

比較項目 口頭とOJT任せ 市販のテンプレートやマニュアル作成ツール 制作会社へ丸投げ 自社で見える化(支援を使う場合を含む)
開店までの準備の重さ ◯ 書く準備は要らない。開店後に教える時間がかかる ◯ 項目の枠があり、書き始めやすい ◯ 書く作業を外に任せられる △ 開店初日の書き出しとリハーサルの時間が要る
自店の判断が反映されるか △ 教える人の頭にはあるが、人によって伝わり方が違う △ 枠は一般的な内容。自店の判断は自分で書き足す △ 聞き取りで拾えた範囲に限られる ◯ オーナーの判断の基準まで言葉にできる
開店後に直し続けられるか △ 直す対象の文書がない ◯ ツールなら書き換えやすい。直す人は別に決める × 納品後に直す人を社内で決める必要がある ◯ 直す人と見直す日を自社で決められる
オーナーの手間 × 2か所からの質問に答え続ける △ 自店の判断を書き足す手間がかかる ◯ 聞き取りに答える時間で済む △ 最初の書き出しに時間を取る
向く場面 2店舗目のスタッフが、1店舗目の経験者だけのとき 書く項目の見当をつけたいとき 決まった内容を、整った形にしたいとき 2店舗目を店長に任せられる状態にしたいとき

表の4列のうち、欠品や返金のときにどうするかという自店の判断まで紙に残るのは、右端の列だけです。

私達株式会社2.1は、オーナーから判断の基準を聞き取って台帳に書き起こす役を、伴走の形で引き受けています。

2店舗目の出店準備のよくある質問

書く範囲は開店初日の分で足り、書き手にはオーナー本人が加わります。

Q1. 2店舗目の出店前に、マニュアルはどこまで必要ですか?

まず用意するのは、開店初日の仕事表と、判断の引き渡し台帳の2つです。全業務のマニュアルは、開店前には要りません。足りない所は、開店後に見直す日に書き足せば間に合います。資金・立地・出店時期の検討は、マニュアルとは別に進めてください。

1店舗目の手順メモがあちこちに散らばっている場合は、集め方をマニュアル整理の進め方|使われているかで仕分ける手順に書いています。

Q2. 支店や事務所など、店舗以外の2拠点目でも同じですか?

はい、同じ進め方が使えます。「開店初日」を「拠点の稼働初日」に読み替えてください。業種ごとの許認可や労務の手続きは、所管の窓口や社会保険労務士に確認してください。

Q3. 1店舗目が忙しくて、書き出す時間が取れません

店長1人の分だけなら、1回30分の書き出しで始められます。開店初日に働く全員の分を、一度に書く必要はありません。2店舗目の店長候補に聞き手役を頼めば、書きながら「新人に分かるか」の確認も済みます。

Q4. 自社でやるか外部に頼むか、どう決めればいいですか?

決め手は、オーナーが判断の基準を話す時間を取れるかどうかです。時間が取れるなら、4つの手順は自社で進められます。何から書くか決まらない場合や、時間が取れない場合は、外部と一緒に進める伴走を選べます。伴走でも、判断の基準を知っているオーナーと現場の方には、書き出しに加わっていただきます。

まとめ|2店舗目の準備は、開店初日の書き出しから

まずは、店長1人分の開店初日の仕事表を、30分で書き出してください。残った空欄は、1店舗目で人が補っている部分を示しています。

空欄を1店舗目のスタッフに聞いて埋めたら、判断の引き渡し台帳をつくり、リハーサルの日を決めます。開店から30日後に見直す日も、同じ日のうちにカレンダーへ入れておきます。

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