自動車教習の属人化をAIで解消 ―“見えない現場”の標準化プロジェクト
株式会社OMCN(大町自動車学校)
代表取締役 鶴田 英司 様

自動車教習は、道路交通法でやるべき項目は決まっているので、外から見ると「ちゃんと標準化されている仕事」に見えると思います。でも実際の現場では、教習インストラクターごとに教え方や声掛けの仕方、判断基準が少しずつ違っていて、気づかないうちに属人化が進んでいるというのが正直なところでした。
特に教習は車内で行われるので、外から見えないんですよね。第三者がチェックできる環境ではないので、ベテランのインストラクターがどういう判断をしているのか、どういう工夫をしているのかを体系的に集めることができませんでした。
弊社ではベテランインストラクターが中心になって「Proven Methodology(プルーブンメソトロジー)」という独自の資料を作ったのですが、運転教本などの他資料と併用した情報活用や効率的な教育体制の構築ができておらず、教育の効率化や品質の安定化には繋がりきれていませんでした。その結果、教習の質にばらつきが出たり、新人が一人前になるまでに時間がかかったりという課題を感じていました。
【Proven Methodology(プルーブンメソトロジー)※一部抜粋】

最近のAIの進化を見ていて、「これは使えるのではないか」と感じたのがきっかけです。情報の整理や検索性が一気に実用レベルまで上がってきましたよね。
私たちが考えたのは、標準化したノウハウをAIに読み込ませておけば、誰でもすぐに“正解に近い行動”を確認できる環境をつくれるのではないかということでした。
単にマニュアルを作るのではなく、暗黙知を形式知にして、それを構造的に整理し、AIを通じてすぐにアクセスできるようにする。そういう段階的な変換を通して、教習の仕組み自体をアップデートしたいと思ったのです。
2.1様を選んだ理由は、大きく二つあります。
一つは、暗黙知の可視化を得意としている点です。業務を「流れ」「考え方」「動き方」といった形で分解して、「何をやっているか」だけでなく「なぜそうしているのか」まで整理してくれると感じました。ベテランの無意識の判断基準を引き出して、再現可能な型に落とし込める会社だと思ったのです。
もう一つは、多業界での実績と応用力への期待です。自動車教習業界には指導要領はありますが、実際の車内で使えるレベルまで落とし込まれたマニュアルの前例はほとんどありませんでした。だからこそ、「前例がない領域でも構造化できる力」があるかどうかが重要で、2.1様は業界の特性に左右されず暗黙知を整理してきた実績があるという点で依頼を決めました。
まず最初にやったのは、各教習時限の目的や到達目標を改めて定義することでした。「この時間で何ができればいいのか」「どの状態を習得とするのか」を明確にし、構造化の土台をつくりました。
その後、現場での暗黙知の洗い出しや「Proven Methodology(プルーブンメソトロジー)」の実践状況を確認するために、ベテランインストラクターの教習風景を360度カメラで撮影しました。実際の手順だけでなく、「なぜ今その声をかけたのか」「どのタイミングで指示を出すのか」といった、具体的な声掛けや、テキストでは伝わりにくい感覚的な指導まで言語化し、その中から標準化する指導法の精査を行いました。
インタビューもかなり深掘りしていただきましたね。「その順番の理由は?」「その声掛けの意図は?」と質問されることで、自分たちでも気づいていなかった判断基準が見えきたり、他のインストラクターの独自ノウハウを学ぶ機会になったりと、毎回脳内がアップデートされる感覚でした。
完成したドキュメントは、GoogleのAIツール「NotebookLM」に読み込ませる前提で設計されています。ただ文章をまとめるのではなく、AIがテキスト内容を正確に解釈しやすいように階層構造や情報の入れ方が意識されています。
具体的には、タブごとに各教習時限の情報をまとめ、情報の粒度を均一に短文・箇条書きで記載。表や改行によって情報が識別された形式です。
また、教習所内・外のコース図や図解を挿入し、頭の中にまだ地図のない新人インストラクターでも現場での動きをイメージしやすいようなアウトプットになっています。
【ドキュメント※一部抜粋】

今回の制作を通じて強く感じたのは、「自社だけではやりきれなかったことを、2.1様が形にしてくれた」という点です。
まず一つ目は、自社では気づけなかった暗黙知を洗い出していただいたことです。日々の教習の中で無意識に行っている業務は、自分たちで言語化しようとしてもなかなか拾いきれません。2.1様は、「なぜその順番で実施しているのか」「その声かけの意図は何か」といった細かな点まで丁寧に深掘りしてくださり、インタビューを受ける中で、私たち自身も重要な判断基準を再認識したり、新たな課題に気づいたりと、多くの学びがありました。
二つ目は、情報整理と構造化のサポートです。社内にも「Proven Methodology(プルーブンメソトロジー)」はありましたが、情報が断片的で、教本や現場とのズレがあり、実践と十分に結びついていない部分がありました。2.1様は各資料と現場との差分を丁寧に整理し、現場で実践的に使える情報に精査していただきました。さらに、AIが正しく機能するような資料設計までサポートしてくださったことで、実用性の高いアウトプットに仕上がったと感じています。
三つ目は、第三者視点による理想と現実の差分調整です。社内だけで議論をしていると、「本来こうあるべき」という理想論に寄りすぎたり、「忙しいから難しい」と現実に引き戻されたりしてしまいます。2.1様は外部の立場から冷静に整理してくださり、理想を追いすぎず、かといって現状に甘えすぎない形で落としどころを設計していただきました。この調整役があったことで、実践可能な標準化が実現できたと感じています。
今はちょうど新人研修で使い始めたところです。本格運用という意味ではまだ初期段階なんですが、現場ではすでに手応えを感じています。
これまでは、新人教育はどうしても先輩インストラクターによるOJTが中心でした。現場に入って、横について、実践しながら覚えていくという形ですね。それはそれで大事なんですが、どうしても教える側の時間やスキルに依存してしまう部分がありました。
今はまず、完成した資料を読み込ませたAIを活用して、各教習時限の目的や到達目標、実施手順、声掛けのポイントなどを事前に理解してもらうようにしています。いきなり現場に出るのではなく、まず基礎を頭に入れてもらう形ですね。AIに質問すればすぐに答えが返ってくるので、自分で繰り返し確認しながら学べる環境が整いました。
新人も、「これで合っているのかな」と思った瞬間にAIに聞いて確認できるので、受け身というより主体的に学ぼうとする姿勢が出てきています。その分、現場でゼロから説明する時間はかなり減りました。基礎を理解した状態で実践に入れるので、OJTの時間も明らかに短くなっていますし、教育全体の効率は確実に上がっていると感じます。
教育がスムーズになったのは新人側だけではありません。教える側も「この時限では何を最優先で伝えるのか」「どこまでできれば次に進めるのか」という基準を共有できているので、指導の軸がぶれにくくなりました。以前は教習インストラクターごとの経験や感覚に頼る部分もありましたが、今は共通の基準があるので説明に迷いがなくなりましたし、「この内容なら質は担保できている」という安心感もあります。

今回のプロジェクトは、私たちにとってゴールではなく、ようやくスタートラインに立ったという感覚です。標準化したデータやAIの基盤はできましたが、これをどう育てていくかがこれからのテーマだと思っています。
教習の現場では、日々さまざまな気づきや改善点が生まれます。実際に運用してみて初めて見える課題もありますし、新しい工夫も出てきます。そうした現場の声を継続的に反映させながら、データをアップデートしていくことで、仕組みそのものの精度を高めていきたいと考えています。作って終わりではなく、使いながら磨いていくイメージですね。
また将来的には、この取り組みを一つのモデルとして整理し、パッケージ化することも視野に入れています。自動車教習業界には指導要領という枠組みはありますが、実際の車内で再現できるレベルまで落とし込まれた標準化モデルはまだ一般的とは言えません。今回構築した「暗黙知を構造化し、AIで活用する」という仕組みは、他の教習学校にとっても活かせる可能性があるのではないかと感じています。
今後は、この仕組みを他校にも普及し、業界全体の底上げにつなげていきたいと思っています。属人化をなくすことが目的ではなく、それぞれの学校が持っている強みやノウハウを資産として残し、組織として活用できる状態を広げていくこと。それが私たちの次のステップだと考えています。